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「7年待つ」「稼頭央なら何とかしてくれる」…いち西武ファンが松井稼頭央監督に捧げる思い

文春野球コラム ペナントレース2023

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 拝啓、松井稼頭央監督。

 今季は我が埼玉西武ライオンズの監督に就任していただき、誠にありがとうございます。松井稼頭央“選手”の現役時代のプレーの数々に元気と勇気をもらったひとりとして、松井稼頭央“監督”とともに戦えるシーズンの到来を本当に嬉しく思います。いつか見たいと願った光景を今現実に見られていること、本当に喜ばしく思います。

 一方で、とても申し訳ない気持ちでいっぱいです。SNSを覗けば敗戦のたびにあふれかえる非難の数々。「松井監督」「松井稼頭央」がトレンド入りしただけで、それが後ろ向きな暴言の羅列であることを予感して、辛い気持ちになります。采配への非難、休養・解任を求める声、果ては指導者としての資質すら否定する声までも。ご本人の耳にも届いてしまっているものとは思いますが、それは決してファンの総意ではないこと、ご承知おきいただければと思います。

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松井稼頭央監督 ©時事通信社

三顧の礼で迎えるべきレジェンドに対して、しかるべき備えができなかった非礼を詫びる

 今、埼玉西武ライオンズは非常に苦しい状況にあります。長年に渡る人材の流出は、抜けると同時に次世代の大器が現れるという自転車操業で何とかごまかしてはきましたが、ついに破綻の時を迎えました。球界を代表するクラスの選手が毎年ひとり、ふたりと抜ける大貧民のような環境で何とかここまで粘ったものの、野手の陣容はもはや優勝を争えるものでは到底ありません。休養をさせようとした源田壮亮さんを、指名打者で残さざるを得ないような難しいやりくりさえ強いられています。ご苦労、お察しします。「1番DH源田」は松井監督の苦労を象徴する出来事として、記憶に残したいと思います。

 そうした人材不足を2軍監督時代の松井監督の責とする声も一部にありますが、編成は親会社と球団と現場と全員で行なうものです。国内他球団でプレーする元所属選手が今もライオンズにいれば話はまったく違っていましたし、トレードや外国籍選手の獲得に動かない球団ではなく松井監督を責めるのは順番がおかしいと思います。それでも松井監督に一部の人の矛先が向いてしまうのは、我らがヒーロー松井稼頭央を頼り、甘えているのだろうと思います。「稼頭央なら何とかしてくれる」と、根拠のない祈りを寄せているのです。松井稼頭央は、ずっと、そうした祈りを叶えてきてくれた人ですから……。

 本来なら、松井監督を迎える日は、万全の状態ですべてを整えて迎えるべきでした。十二分な戦力を整え、実績と経験を備えた選手・コーチを並べ、初年度から日本一を狙える状態でチームをお預けするのがしかるべき姿勢だったと思います。逆に言えば、そういう状態を作れないなかで、松井監督を誕生させてしまったことをファンとしても心苦しく思います。とかく取りざたされる采配への批判も、選手が起用に応えていれば何の問題もないのです。誰も起用に応えてくれない、選択肢Aと選択肢Bのどちらを選んでもハズレという状況では采配も何もないのです。新人監督として至らない部分が多少あったとしても、それは誰しもがそうである話です。その至らなさがあることを念頭に置いて、それをカバーするだけの十二分な戦力でお迎えするのが、レジェンドに対する正しい姿勢だと思います。劉備玄徳だって関羽も張飛も趙雲子龍もなしに諸葛亮を迎えに行けるはずがないのです。

 世間には「名選手、名監督にあらず」としたり顔で言う人もいます。確かに、名選手のすべてが名監督と呼ばれたわけではありませんし、選手時代の活躍以上に指導者として実績を残す人もいます。選手としての能力と指揮官としての能力は別物だと思います。ならばこそ、我らのレジェンドが「たとえ名監督でなかったとしても」、血迷ったファンが非難に走るような悲しい事態を避けられるくらいのチームを作ってお迎えするのが当然の礼儀だと僕は思います。腕組みして座っているだけで済むチームを作ってお渡ししなければいけなかった。松井稼頭央は、ライオンズにとってそういう特級格の存在だと僕は思っています。本当に辛い。申し訳ない。こんな状況で松井監督をお迎えしてしまったこと、心からお詫び申し上げます。

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