Netflixオリジナルドラマ『ガス人間』で物語の鍵になるのが、謎の福祉施設「ホワイトセンター」である。このモデルになったと考えられているのが、「韓国版アウシュビッツ」と呼ばれた兄弟福祉院事件だ。日本ではほとんど知られていないこの事件について、Netflixドキュメンタリー『私は生き延びた 韓国を揺るがせた悲劇の中で』(2025年)を元に振り返ってみたい。(全2回の2回目)
ソウル五輪の前に行われた「街の浄化」
兄弟福祉院の院長はパク・イングンという人物である。
義母が設立した朝鮮戦争の戦争孤児を受け入れるための施設「兄弟育児院」を引き継いだイングンは、施設を「兄弟福祉院」と改称し、釜山市の委託を受けて浮浪者や生活困窮者などの収容を積極的に行うようになった。
強制収容者の数が大幅に増えたのが、チョン・ドゥファン(全斗煥)大統領による軍事政権下の1981年のこと。この年、1988年のソウル五輪開催が決定している。ソウル五輪と1986年のアジア競技大会を開催するにあたり、清潔な先進国であることをアピールするため、パク・チョンヒ(朴正煕)政権下から行われてきた「街の浄化」が一層推進された。
「英雄だと思っている」
内務部の指示に基づき、一斉に行われたのが浮浪者の取り締まりである。実際に釜山の町から浮浪者の姿は大幅に減った。電話一本で路上生活者を排除してくれるイングンの施設は賞賛を浴びた。イングンの知人で社会福祉法人理事長の男性は、事件が明るみに出た今でも、彼の行為を「英雄だと思っている」と高く評価している。
しかし、強制収容された子どもたちのほとんどは浮浪者ではなかった。
