「真実の愛か禁断の過ちか」。まるで恋愛ドラマの宣伝文句だが、このキャッチコピーの対象が、違法な関係を持ったあと長年連れ添った女教師と男児の実録犯罪であったなら、どう感じるだろうか。

 近ごろ、再注目されているのが、1990年代にアメリカで起こったメアリー・ケイ・ルトーノー事件だ。世界中で話題を巻き起こした「美人教師」による児童性的虐待は、フィクションの題材にもなってきた。2000年代には英映画『あるスキャンダルの覚え書き』にてケイト・ブランシェットが、加害者の死後となる2023年にはアカデミー脚本賞候補となった米映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』にてジュリアン・ムーアが加害者に似た役を演じている。

映画『メイ・ディセンバー ゆれる真実』公式Xより

メアリーが人気の「美人教師」になるまで

 加害者のメアリー・ケイは、人生のはじめから注目に慣れていた。1962年に彼女が生まれたシュミット家とは「元祖トランプ」と呼ばれるカリフォルニアの極右政治一家で、抗議活動が邸宅に押し寄せることも珍しくなかったのだという。父は共和党議員および第三党の大統領候補にまでのぼりつめ、母親も幼い兄弟の子育てをメアリーに任せて反フェミニスト活動に邁進した。6人の子どものうち、2人の兄弟はそれぞれブッシュ大統領の副法律顧問、トランプ大統領の外交政策顧問という華々しい経歴を歩むこととなる。

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「完璧な保守一家」のイメージが崩壊したのは1980年代。父親が10年にわたって大学の元教え子と不倫関係にあり、2人の隠し子を放置していたことが発覚して失脚したのだ。メアリーの幼馴染によると、父への憧れが壊れてしまった娘は夢の世界に生きるようになった。そして後に、父親の行動を「さらに酷いかたちで」真似ることとなる。

メアリー・ケイ・ルトーノー ©Daren Fentiman/ZUMA Wire/共同通信イメージズ 「ZUMA Press」

 親から離れて音楽の道に進もうとしたメアリーだが、望まぬ妊娠、それにともなう親の意向によって、大学を中退し、気の合わない恋人スティーブと結婚することとなる。夫婦仲は良くなかったが、4人の子をもうけ、シアトルに移ると教員免許を取得して小学校の人気教師となった。