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つらく複雑だった元少年ヴィリの人生

 元「美人教師」のメアリーが大女優に演じられていった一方、元少年にあたるヴィリのストーリーはあまり語られてこなかった。メアリーが服役中だった2002年、彼の家族が学区と警察相手に起こした裁判では、高校を退学したころのヴィリの非行や自殺未遂が語られている。少年にして親になったヴィリは、友人に悩みを理解されず、周囲から「強姦魔」として笑われたという。メディアから得たお金にしても、親が浪費していた。

 20代のころには、DJとして「先生に夢中」と題した扇情的なクラブイベントを開催したこともあったが、だんだんとメディア上での姿勢は変わっていき「まだ自分が生きていることに驚く」ほどつらい人生を歩んだと告白していった。30代になると、親として、10代の娘たちが年上の大人と交際することに反対を表明。妻の死後には、同意にもとづいた夫婦関係だったとしながら、個人的に子どもに惹かれることはないし、仮にそうなったら「なんらかの助けを求める」とコメントした。

夫婦とその娘たち ©AFP=時事

 現在40代になったヴィリは、新たなパートナーと第3子に恵まれ、孫を持つ祖父にもなった。2023年、事件によく似た映画『メイ・ディセンバー』が公開されると、彼をモデルにしたような役が同情的に描かれて賞も受賞したことで、ふたたび脚光を浴びることとなる。しかし、ヴィリは、制作陣から連絡がなかったことに憤りを示し、自分が映画に協力していたら「傑作がつくれたはず」だと主張した。メアリーとの人生は、映画の描写よりずっと複雑だったという。四半世紀にわたり世間を騒がせた「愛か犯罪か」の真実を知るのは、本人だけなのだ。