Netflixのオリジナルドラマ『ガス人間』が話題を呼んでいる。東宝映画『ガス人間第1号』をリブートした作品で、製作総指揮と脚本を『新感染 ファイナル・エクスプレス』などの監督として知られるヨン・サンホが務めた。
『ガス人間』で物語の鍵を握るのが「ホワイトセンター」という謎の福祉施設だ。ネタバレになるため詳述は避けるが、この施設は行き場のない人たちやホームレス、身寄りのない子どもたちの更生施設という名目になっているものの、実態は強制労働によって数多くの死者を出しており、存在自体が隠蔽されていたという設定である。
ドラマを見ていて想起したのが、韓国の兄弟福祉院事件だ。釜山のとある施設が1975年から1987年にかけて約3万8000人を強制的に収容し、強制労働や虐待によって657人もの人々を死に至らしめたという人権侵害事件である。(全2回の1回目)
「韓国版アウシュビッツ」と呼ばれた事件
「韓国版アウシュビッツ」と呼ばれて社会を震撼させた事件だが、韓国では2010年代に調査が進んでメディアが取り上げるようになるまでは、それほど知名度は高くなかった。当然ながら日本でも、ほとんど知られていない。
この事件を取り上げたのがNetflixのドキュメンタリー『私は生き延びた 韓国を揺るがせた悲劇の中で』(2025年)である。『ガス人間』でガス人間を演じたUTAも、演じる上でこの作品を参考にしたと語っている。直接的な言及はないが、社会的弱者が犠牲になる作品をこれまで何度も作ってきたヨン・サンホが意識していないとは言えないだろう。
生き延びた元少年たちの証言
『私は生き延びた』に証言者として登場するのは、兄弟福祉院に強制収容されて生き延びた人たちだ。現在の年齢は表示されないが、概ね50代ぐらいである。
最初に登場した男性は、1982年に強制収容された。当時、彼は14歳。普通の中学生だった。学校からの帰り道、タバコを喫っている警官の前を通り過ぎたとき、「おい、ガキ」と呼び止められて、そのまま警察署の中に引きずり込まれた。

