突出した阪神の「四球収支」
実際、四球はヒット以上の効果をもたらしています。相手投手にとって四球はミスですので、動揺のもとになります。ビッグイニングにはたいてい四球が絡んでいます。
ボール球を振らないと四球が増えるだけでなく、カウント優位になって狙い球が絞りやすくなったり、走者を動かしやすくなったり、投球数がかさんで投手交代が早まったりと様々な“いいこと”があります。
阪神の四球数が他球団に比べて突出して多い理由は、打者の力に加えて、投手の力も貢献しています。阪神投手陣の与四球数はリーグ最少の193。2番目に少ないDeNAでも221、最多の中日は264ですから、阪神投手陣の四球がいかに少ないかがわかります。この数字はローテの柱である大竹と村上の貢献度が高いでしょう。
得点に絡みやすい四球。打者はたくさん奪い、投手はあまり与えない。地味ながら、その「収支」が阪神の勝率に寄与しているのは間違いありません。
打線全体としてボールを振らずに四球を奪うという「調」が確立されたことで、相手はそれに対応してきます。四球さえ出さなければ怖くない。ストライクゾーン目がけて強気に投げ込んで早く追い込み、かわすのではなくどんどん勝負しようという組み立てが増えてきました。
森下のスイングがもたらすもの
こうなると「岡田調」の優位性は低下します。気持ちの上でも押され気味になってしまいます。逆に相手の戦術に対応したいところ。大山、近本、中野は、ときには昨年までの「超積極的」な打撃を思い出してくれてもいいのですが、なかなかうまくいかず、得点が伸びない試合が増えました。
そこに新風を吹き込んでくれているのが、3番に定着したドラ1ルーキー森下翔太です。一時は「バットが出ない」症状に悩み二軍落ち。持ち前の積極性を取り戻して一軍に復帰してからは、結果が出ようが出まいが気にすることなく、ファーストストライクをフルスイングする姿が目立ちます。7月30日の広島戦、6回ウラに大瀬良から放った決勝2ラン本塁打も初球でした。
振り過ぎのようにも見えますが、全然OKです。今、阪神打線は「調」を破る打者を必要としています。7月、森下は3本塁打、15打点。月間打率は.254と、めざましいと言えるほどではありませんが、キャンプ、オープン戦で打ちまくっていた頃の自信を取り戻しつつあるように見えます。
他の打者がボールを振らないことで、森下への初球が甘くなります。森下が第1ストライクをフルスイングすることで、他の打者も初球への集中力が高まり、相手バッテリーは初球を意識します。「単調」から複雑系への「破調」がもたらされるでしょう。森下が触媒となって、大山・佐藤輝との阪神ドラ1クリーンナップが大化けするでしょう(したらいいな)。
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