身長がない投手の共通点「あるモノで戦っていくしかない」
大野は日本ハム時代に2回背番号を変えた。入団時の「28」から、高橋信二が去った後は「2」に。そして2016年から「27」に変わったのは、現役引退した中嶋の置き土産だった。その中嶋はオリックス時代、同郷の山田久志氏に「捕手ならこの番号をつけろ」と言われて「53」から「27」に変更した歴史がある。正統派の守備型捕手という流れをくみ、早くもコーチとして指導を開始した大野に、武田勝はこんなエールを送る。
「師匠である中嶋さんを目指しているんだろうね。中嶋さんは厳しいことは言うけれど、アメとムチの使い方がうまい人だから。投手にも捕手にも意見を言って、少しずつでも物事を前に進める。気がつけば、言うことを聞いておけば間違いないっていうくらいの信頼が生まれるんだよ。奨太もキャプテンシーがあるので、そうなれるんじゃないかな」
大野がドラフト1位でプロの世界に入ってきた一方で、谷元は7位指名。都市対抗野球で好投してもプロからはっきりとした誘いはなく、ドラフト前に鎌ケ谷で行われた入団テストに姿があった。日本ハムにやってきてからも、しばらく1、2軍を往復する日々が続いた。本人も引退あいさつで言っていたが、身長167センチはプロ野球の投手として最も小柄な部類だ。その中で戦う姿は、武田勝にとって“同志”でもあったという。
「体格がないから、あるモノで戦っていくしかないという割り切りができているんだよね。僕も(武田)久もそうだけど、ハンデだと思っていない。ないものはしょうがないじゃない。球が速かろうと遅かろうと。タニモは攻めていく気持ちが自分の投球ですと、アピールできる投手だったね」
さらに続けた。「奨太には中嶋さん、タニモには久といいお手本がいたのは間違いないね」。プレーする姿から“師”の存在をイメージできるのは、2人に共通する特徴だった。
その谷元を師と仰ぐ投手には、今季から日本ハムに移籍してきた山本拓実がいる。フォームから投げっぷりまでうり二つだ。そして大野の影が見える捕手もこれからまた、生まれてくることだろう。そんな“流れ”を勝手に感じて、大喜びするのはファンの特権だ。だから話を聞いた後で、武田勝にも伝えた。僕らはまた、あなたのような“気持ち悪い”投球術を誇る投手を見てみたいのだけれど……。答えはある意味、予想通りだった。
「何にもしないのにもちょっと飽きちゃったね。結局僕には野球しかないから」。どこかで、技術を伝える機会もまたあるのかなと思った。グラウンドから「あの頃」のファイターズの匂いはどんどん消えて行く。ただそれは時代が一回りして「次」を待つフェーズに入ったことを意味するのだ。
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