作家・塩野七生氏が、高市内閣について綴った連載「日本人へ」の冒頭を紹介します。

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「女子ワク」という縛り

 この一文は、十月二十日、国会での首班指名の結果さえも知らない状態で書いている。記者や評論家や学者のような政治の世界の有識者ならば、すべてがはっきりしないと書かないのかもしれないが、私は書く。なぜ?

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 自民党に、負けグセをつけさせないためである。

「負け」は仕方ない。だがそれを、「クセ」にしてはならない。「クセ」になってしまっては、挽回は実にむずかしくなるからだ。そして自民党の負けグセはイコール日本政治の負けグセになり、結局は日本全体の負けグセになってしまう怖れさえあるのです。

高市首相 ©時事通信社

 高市早苗氏とは会ったこともない。時おりは会っていた生前の安倍晋三も話にのせたことはなかったから、彼女と私とでは共通点はないと思われていたのだろう。だが、共通点は一つだけあるような気がする。それは、われわれ二人ともが、「女子ワク」なんて言葉もなかった時代から、そんなことなど考えもしないで仕事をしてきたのではないかということである。

「女子ワク」って、けっこう()自由な決まりなんですね。このワクで登用されたと思われるや、周囲は、女の視点に立ってとか、女の自立や地位の向上に取り組むべきとかを期待してくる。組閣したらしたで、女の大臣は何人かを問題視する、ケチな心情の男が少なくないのが日本なのだから。そして、忘れないでください。マスコミ対策の最上の方策は、テキ側が予想もしていなかった策で出た場合であることを。

 高市内閣の首相は高市氏であるのは当然だけど、その周囲を固める各省庁の大臣たちを、全員男にしてはどうですか。マーガレット・サッチャーの第一次内閣も、全員が男でした。

塩野七生 ©文藝春秋

 政治家は使い捨てにされる存在だとは、一昔前の小泉純一郎の言葉です。それを私は、日本という国は政界にかぎらず、使わないで捨てる国だと思いながら聴いていたのでした。

 とは言っても今なお自民党には、ベテラン・中堅・若手と、仕事ができる、またはできそう、と思われる人材がウヨウヨしている。彼らを使わないという()はない。使った結果、捨てられるか生き残るかは、各人の力しだいであるのはもちろんにしても。そして、副大臣のほうは、全員女にする。有能な副大臣を使いこなせない大臣はそれだけで失格だから、大臣をするのもラクではないということも明らかになる。

※本記事の全文(約1900字)は、「文藝春秋」12月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(塩野七生「紅一点でありながらダイヤの切っ先にも?」)。 
 

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】〈総力特集〉高市早苗総理大臣の人間力/彬子女王と母信子妃 決裂の瞬間/素晴らしき哉、第二の人生!

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