「遺産相続」のトラブルといえば、親の遺した財産を兄弟間でどう分配するかで揉める、みたいなことを思い浮かべる。だが、それよりも深刻なのは負の遺産、つまり借金も相続しなければならないということだ。だから相続放棄の件数が増えていると『あさイチ』(NHK)で特集していた。
そのちょうど前日、『ザ・ノンフィクション』で放送されたのは「炎の中で死んだ父を僕は知らない1~遺された絵画と借金と~」(全3回の1回目)と題されている通り、まさにそんな話だった。今年4月、火事で亡くなった落合皎児(こうじ)。かつて「スペインの画家150人」に選ばれたほどの画家だった。その息子・落合陽介ギフレはテレビディレクター。父とはほとんど一緒に暮らしたことがなく、2年近く連絡も絶っていたという。全焼した住宅の奥にはアトリエがあり、膨大な作品が遺されている。それだけなら大きな問題はなかったかもしれないが、もうひとつ遺っていたのは、1500万円もの借金。相続を放棄してしまえば、借金はなくなるが、作品もすべて手放さなければならない。
これを見て思い出したのは10月23日にNHKで放送された『熱中時間のあとしまつ』。2004年から2010年まで同局では「熱中時間」という番組があった。周りからは価値が理解されづらいコレクションを集めているような「熱中人」を取り上げた番組だ。番組が終了したあとも熱中人たちの熱は冷めることはない。そのコレクションは増え続け、しかも高齢になってしまっている。彼らが亡くなったあと、コレクションを遺される家族にとっては大問題だ。そうならないための「あとしまつ」を追った番組だった。どう処分するかではなく、どう残すかに焦点をあて、幸いにも引取先の施設が見つかった例を取り上げていたが、多くの場合は処分するしかなくなるだろう。その思いの深さの分、重い決断となるに違いない。
ギフレも膨大な作品を前に複雑な心境を吐露する。
「この絵のせいで自分の家庭がめちゃくちゃになっている象徴、鏡みたいなもの」「だから、簡単に断ち切れないんだよね」
父の芸術活動のため家族はバラバラになり、弟は20歳で自死を選び、母は65歳で孤独死したという。その元凶でもあり、父が生きた証でもあり、芸術的な価値もあるかもしれない絵画(遺品を見た美術の専門家が、「コレクターにとってはよだれが出る」と評しつつ「コレクターはいないんだけど」と言っていたのが可笑しかった)。息子は相続か放棄かを決断するために、生前の父の痕跡を追っていく。父が遺したものによって、没交渉だった父子に死後、深い関係性が築かれていくという皮肉。息子がどんな「あとしまつ」をするのか見逃せない。
『ザ・ノンフィクション』
フジテレビ 日 14:00~
https://www.fujitv.co.jp/thenonfx/
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source : 週刊文春 2024年12月5日号