人生の3分の2は寅さんのことを考えてきた。

 と、いうのは嘘だけど、折りに触れ考えることが多かったことは本当。

『男はつらいよ』を初めて映画館で観たのは、シリーズ8作目の『男はつらいよ 寅次郎恋歌』だった。併映は『春だドリフだ 全員集合!!』と、当時つけていた“映画ノート”にはそう書いてある。中学生になり、いろんな映画を観始めた頃だ。それに思春期、いわゆる青春ノイローゼ。男子校に通う冴えない中学生としては、街の映画館が現実逃避のシェルターでもあった。

「あんた、彼女はまだ出来ひんのか?」

 休日、家でゴロゴロしてるとオカンが聞いてくる。そこが、ひとり息子のつれぇところよ。毎週のように映画館通いして『大自然の闘争 驚異の昆虫世界』なんてドキュメント映画も観たし、ようやく寅さんにも出会えたんだ。

 

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source : 週刊文春 2025年1月2日・9日号