『男はつらいよ』映画公開55周年記念 歴代マドンナが明かす寅さん秘録

 

第7作『男はつらいよ 奮闘篇』(1971年)

「そういえばるみちゃん、あの田中邦衛さんとのシーンでさ……」

 先日、お目にかかった山田監督が、不意にこう仰ったんです。すると私、「先生、無精髭ほうがらかして、見たくねきゃあ」と自然に口をついて言葉が出た。邦衛さん扮する小学校の教師、福士先生へ言ったセリフ。半世紀以上も経っているのに。当時は、デビュー間もなくて、演技の「え」の字も知らなかった。これは、そのくらい記憶に残っている作品です。

『奮闘篇』の冒頭、集団就職で上京する学生が撮られてますね。地方の若者が都会に働きに出るという、製作された1971年の日本が記録されている。そのなかで、青森県西津軽郡驫木(とどろき)から出て来た花子=私の物語が始まります。花子は軽度の知的障害を抱え、紡績工場や飲み屋で働く女性です。彼女は静岡県沼津の町中華屋で寅さんと出会うんですが、従来のマドンナと違い、疑似兄妹的な雰囲気で描かれます。そういう難しいテーマなのに、20歳そこそこの私は「ワーッ」と飛び込んじゃったんです。監督と面接しても内心、「寅さんって何?」ってくらいの怖いもの知らず。でもそんな白紙の状態が花子そのものだったのかもしれない。監督は芝居っ気なしの演技を求めるので、何も出来ない私には丁度よかったのかも(笑)。

 

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source : 週刊文春 2025年1月2日・9日号