(いのうえあずみ 歌手。1965年、石川県生まれ。83年に歌手デビュー。86年にスタジオジブリ製作の映画『天空の城ラピュタ』の歌を担当し注目される。『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』の楽曲も担当。2023年、デビュー40周年記念アルバム『ジブリ名曲セレクション Dear GHIBLI Ⅱ』を発売。)
これまで約30年にわたって、家族みんなで楽しめる「ファミリーコンサート」を開催してきました。客席には小さなお子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまでさまざまな世代の方がいて、時にはみんなで合唱することも。そんな光景を見ていると、我が家にはいつも誰かの歌声が響いていたことを思い出します。
『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』など、スタジオジブリ作品の主題歌や挿入歌の歌唱で知られる歌手の井上あずみさん。透明感のある伸びやかな歌声で作品とともに心に残る名曲を歌い上げてきた。1965年に石川県金沢市で生まれた井上さんは、幼い頃から歌が身近にあったという。
私の生家は日本三名園の一つとされる兼六園から歩いて20分ほどの、神社が立つ小高い丘の麓にありました。古い木造2階建ての家屋で、両親が営む活版印刷の工場が併設されていた。でも、その家の記憶はあまりありません。私が小学2年生くらいの時に、大雨で背後の崖が崩れて土砂が流れ込み、半壊してしまったからです。突然「ゴー」と地鳴りがして、父の「逃げろー!」という叫び声で家から飛び出したことは覚えています。幸い家族は無事でしたが、テレビで報道される騒ぎでした。
その後、崖はコンクリートで土留めされ、家は建て替えられました。鉄筋コンクリートの3階建てだったからだいぶ建築費がかかったんじゃないかな。1階は十畳ほどの工場と倉庫で2階は居間や両親の寝室、台所などの水回り、3階には子ども部屋が3つ。両親は毎日夜遅くまで働き、家の中はいつもインクのにおいが立ち込めていました。
1歳下と6歳下に妹がいて、私は三姉妹の長女。忙しい母に代わりご飯を作ることもありました。居間のこたつテーブルを囲み、歌番組を観ながら食事するのが一家団らんのひと時。家族みんな歌が好きで口ずさんでいたものです。
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井上さんは近所でも歌が上手いと評判の子どもだった。小学4年の時に金沢の児童合唱団に所属し、地元ののど自慢大会にも出場。周りから歌を褒められるのが嬉しくて、歌手を夢見るようになったという。
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source : 週刊文春 2025年1月30日号