明治大正の日本人の平均寿命は男女ともに40代でした。1950年代に60代を突破すると、今や日本女性の平均寿命は90歳間近。40代は長い人生の最初の折り返し地点です。でも積み重ねた経験とは裏腹に、会社勤めならば“あがり”が見えてくるのもこの時期。さらに40代以降は更年期も始まって――。40代以降の人生、どう設計しますか?

しのひろこ/1948年宮城県生まれ。東北学院大学在学中にローカル番組でアシスタントを務めたのをきっかけにスカウトされ20歳で上京。68年歌手デビュー。73年ドラマ「時間ですよ」で注目される。92年に直木賞作家の伊集院静と結婚。97年以降、芸能活動を休止している。

女優時代にもらった写真を今も大切に保管する。結婚まもない40代の頃の1枚

 篠ひろ子さんが31年間の結婚生活を語った前号の巻頭特集は、大変な反響だった。直木賞作家である夫の伊集院静さんが肝内胆管がんで亡くなったのが、2023年11月。それから1年の節目に、24年ぶりにメディアに登場して思いの丈を語ったのだ。掲載後、“最後の無頼派”とも言われた伊集院さんの意外な一面を知ったという反響と共に多く寄せられたのが、「篠さんのことをもっと知りたい」という声だった。
 阿川佐和子さんを聞き手に、篠さんが明かした心情が胸にしみた。と、同時に、92年に44歳で結婚すると住居を故郷の仙台に移し、女優としての絶頂期にテレビから姿を消した篠さん自身の人生を知りたくなった。それが反響の意味だろう。
 そこで再度、篠さんにお話を伺った。自分を主語にした篠さんの話は女優業のこと、結婚後に仙台を選んだ時の気持ちなどから、ノーベル賞作家ハン・ガンさんの著書にも及んだ。前号よりもずっと明るい声で語られた人生は――。

 私のことを知りたいという反響があったのはありがたいことです。『週刊文春WOMAN』が出た直後に、地元の河北新報で伊集院を担当していた記者の方からもインタビューの依頼がありました。ある時までテレビに出ていた人が、なぜ急に出なくなったのか知りたい。そういう方は多いのでしょうね。

 97年に最後のドラマ「彼」(フジテレビ系)に出演する時に、「引退します」と言えなかった。まだ自分の気持ちも揺らいでいたので。だから何だかみなさんをズルズル引っ張ってきてしまったようで、申し訳ないなという気持ちはずっと心にありました。

 ただ、自分のことを話すのは苦手なタイプなんです。どういうふうに話したらいいのかしら。

 まずは「お涼さん」から伺うことにした。73年、25歳の時にドラマ「時間ですよ」(TBS系)で演じた小料理屋のおかみ。これで女優・篠ひろ子の人気に火がついた。親の決めた婚約者から逃れ、恋人と心中を図り1人生き残り、しかも最後は白血病で死んでしまうという役だった。20歳で上京、歌手としてデビューしたが当たらず、演技経験のほぼなかった篠さんを抜擢したのはプロデューサーの久世光彦さんだ。

 こんな背の高い女に着物を着せようって、よく久世さんは考えたなって思いますよ。着物も着たことなかったし、お酌の仕方も全然知らなくて一から勉強でした。カウンターの中に私がいて、お客さんが座っているというシーンが多くて、でもカウンター越しに撮ろうとするとお客さんと私のバランスが取れない。だから私はスリッパを履いていたんです。なるべく背が高く見えないようにって(笑)。

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source : 週刊文春WOMAN 2025春号