僕が生まれ育ったのは、トルコ・イスタンブールの旧市街。世界遺産のアヤソフィア、トプカプ宮殿、世界最大級の屋内市場・グランバザールなどがある古い城壁に囲まれた街です。

　その西の外れの小高い丘に、僕が5歳くらいまで暮らした家がありました。

　エコノミスト、グローバルストラテジストとして活躍するエミン・ユルマズさん。グローバルストラテジストとは、国際情勢や経済動向等を分析し、投資戦略を立案する専門家。わかりやすい解説が評判で、メディアにも度々登場している。

　この家がとにかく不思議なところだったんですよ。まず、緩やかな坂を登っていった先に家の敷地への入口となる扉があります。塀に連なっていて鍵もしっかりかかる。その扉をくぐると足元に庭が広がり、そこへは階段で降りていきます。扉までは坂を登ったのに、今度は階段を下る。不思議でしょう？　要は地形を利用していて、浅い谷の、お鍋の底のような部分が僕の家だったんです。

　全体の広さはバスケットコートほどで、一部は自然の岩肌が壁になっている。見上げると、あるのは空ですから広場のようでした。

　そこに、キッチン、リビング、寝室、お風呂、トイレがそれぞれ別個の建物で並び、あとは庭で、イチジクの木などが茂っていました。部屋を移動するときにはいちいち外に出ないといけないのですが、トルコも日本と同様、部屋では靴を脱ぐので、移動する度に靴を履いて脱いで……。寒い冬の夜はトイレに行くのが億劫でした。