(いわしろたろう/1965年、東京都生まれ。映画『血と骨』『春の雪』『蝉しぐれ』『利休にたずねよ』『Fukushima 50』『キネマの神様』で日本アカデミー賞優秀音楽賞、『闇の子供たち』で毎日映画コンクール音楽賞、『レッドクリフ』で香港電影金像奨最優秀音楽賞を受賞。)

作曲家の場合、住まいに関して2タイプあると思うんです。自宅と仕事場が一緒の人と、職住を分けている人。私の場合は職住一緒が向いている。どうやらこれは、同じく作曲家だった父譲りのようです。
映画『レッドクリフ』やNHK大河ドラマ『葵 徳川三代』など、数多くのドラマ・映画音楽を手掛けた日本を代表する作曲家・岩代太郎さん。1965年、音楽家である父・浩一さんの長男として東京都板橋区に生まれた。
父はNHKの教育番組『できるかな』や歌番組、ドラマから舞台まで幅広く音楽を手掛けていました。母は専業主婦で毎日、忙しそうでした。私の下に妹がいて、一男一女4人家族でした。
生家は板橋の借家でしたが、あまりに日当たりが悪く、子育ての環境として劣悪で、私が1歳を迎える前に世田谷区の馬事公苑近くに引っ越しました。木造2階建ての賃貸住宅で、車庫もありましたがうちには車がなかったので、専ら来客用です。当時のマイカーブームを一蹴した父のモットーは「住む場所に金はかけぬ」。口癖は「夏目漱石も借家だった。大事なのは心の豊かさだ」。書斎を持たない父は、常に食卓へ譜面を広げて仕事をしていました。
思い出すのは79年のカラヤン指揮ベルリン・フィル来日公演のこと。台風直撃で公演中止かと思いきや開催決行したんです。父は僕を連れてタクシーで会場へ。大雨の帰途を見越してタクシーはそのまま待ってもらった。チケット代だけでも高かったでしょうに、父は“心の栄養”には大枚はたく人でした。

簡素な家で一番の贅沢品がオーディオセットです。1階には真空管のラックスマンのアンプとJBLのスピーカー。2階にも僕の為にほぼ同仕様のセットがありました。教育や進路に口を出さない父でしたが、このオーディオセットは無言の英才教育の一環だったのかもしれません。
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source : 週刊文春 2025年12月11日号






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