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 あらゆる感情のなかで、恐怖ほど理解より早く感覚が生じるものはあるのだろうか? 自分はいま恐がっている、と気づくより先に恐怖は湧いてくる。

 今は、“意味が分かると恐い話”のジャンルが流行っていて、初めその文章を読んだときにはまったく恐くないものの、注意深く読み返せば、途方もなくおかしな怪異や論理のズレに頭の中で遭遇(そうぐう)して、ゾッとしたりする。

 この“ゾッ”は他人に答えを教えてもらっても有効で、意味が分からないまま答えのページを覗き見しても、自力で答えに到達したときと同じくらい、ゾッとできる。

 しかしこの恐怖はだいぶ知性を要する高等遊戯で、天然に発生する確率はかなり低く、大体が()(みつ)な計算で編み出された、人工的な“ゾッ”だ。不吉なくらい白く美しい小箱に結ばれている(あお)()めた色のリボンをほどくと、箱の中に入っていたものは……という状況にも似た、静かな恐怖だ。

 視覚的にガツンと刺激の来る恐怖は、もっと驚くし、説明が要らない。この、何故恐いかを説明する()も、背景や事情を知る間もおかずに「ワッ、恐い!」と瞬間的に身体が飛び上がるエッセンスの濃さには、興味が尽きない。

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source : 週刊文春 2026年2月26日号