【高市陣営が作成した中傷動画問題】
総裁選でライバル候補を中傷する動画を大量に拡散していた。高市陣営のメンバーが実名で証言した。「動画の7割はアンチ小泉、1割はアンチ林、残りの2割は高市礼賛だった」
◇ ◇ ◇
〈みなさーん!今回の総裁選何か違和感感じませんかぁー?〉
〈前回総裁選で、メディアも議員も散々小泉を持ち上げてたけどー カンペで炎上!無能で炎上! ボロが出まくって大炎上!!〉
〈小泉!アウトー👍〉

これは昨年9月28日と10月1日、TikTokに投稿されたショート動画だ。運動会風のBGMに、小泉進次郎氏の顔写真が表示され、派手なテロップとともに痛烈な“中傷コメント”が読みあげられる。
同じアカウントは、林芳正氏の写真を使ってこんな内容も投稿した。
〈拡散案件でーす!〉
〈政界の119さん あなたがぴーぽーぴーぽーなんですけどぉーーw〉
〈こんな人が自民党のトップなら 日本も終わりですわー!!〉
さらに小泉、林両氏の写真を並べ、「僕ちゃん達えこひーきしてもらえるから 何でもしちゃっていいんだー!ってかー?」と煽り立てる動画もある。
昨秋の自民党総裁選(9月22日告示、10月4日開票)の期間中、これらの動画を連続投稿したのは「真実の政治」と名乗るアカウントだ。投稿の責任者は明示されていない。

「政治系アカウント」が横行
当時の情勢は「小泉か、高市か、林か」だった。
「候補者のうち、茂木敏充氏と小林鷹之氏は支持が伸びず、事実上の三つ巴の争いに。9月末の情勢調査では、国会議員票の首位は小泉氏、2位が林氏、3位が高市早苗氏と、高市氏が追いかける形でした」(政治部記者)
その高市氏のライバル小泉、林両氏にだけ冒頭の動画の矛先が向いているのは一体なぜか。
取材を進めると、匿名性のベールの奥には、驚愕の事実が隠されていた。一連の動画を作成して流布したのは、高市早苗陣営だったのだ――。

◇
政治の世界をインターネット、SNSの発信が席巻している。国政選挙でもネット上が主戦場となり、政治家がこぞって公式発信に取り組む一方で、出所不明の投稿は無法地帯と化している。真偽不明なデマや中傷が飛び交い、過激な言葉で再生数を伸ばす収益目的の「政治系アカウント」が横行する。
今年4月1日には与野党協議会が、選挙中のSNS対策をめぐって議論。自民党側の責任者・逢沢一郎衆院議員が「法改正も視野に入れる」と明言し、ルール作りを急ぐ。こうしたネット世論全盛の時代に誕生したのが高市政権だ。
冒頭の動画の投稿主「真実の政治」(英語表記IDは「true_politics.real」)も、そんなネット世論の一端を担う政治系アカウントの1つだった。アイコンは光に包まれた瞳がこちらを見つめるイメージ画像で、プロフィールには「このアカウントでは【真実】だけを語ります」と書かれている。
総裁選の期間中である9月26日から10月1日にかけて、計3本の動画を投稿していた。
公設第一秘書のメッセージ
1つの動画では、小泉氏が目を瞑った写真を使い、冒頭の通り〈カンペで炎上!無能で炎上!〉と、勢いよく男性風の声が読み上げて揶揄している。
続けて林氏の写真を表示し、〈そもそも林くんって国民のために働いてくれてたのかなー?〉〈石破路線を継承します!あらららららー。完全にアウトーーー!!〉。さらに〈僕ちゃん総裁になったら国民のお金でオネエちゃん達と毎日パーチーだぁ!ってかぁー?〉と、シャンパンを掲げる女性のイメージ映像とともに批判。総裁選について〈ももももしかしてー! 出来レースだったりしちゃうー?〉と疑いを向けた。

別の70秒ほどの動画の冒頭では〈林くんルール破っちゃったー 文書送付投票依頼は完全アウト〉とし、〈そんな人は出馬しないで下さーい〉と呼び掛ける。
そして3本目は〈林・小泉アウトー👍〉〈小泉!アウトー👍〉と連発。〈選挙法違反〉を謳い、総裁選でのリーフレット送付を巡る真偽不明な疑惑を向ける。だが、総裁選は公職選挙法の適用対象に含まれておらず、誤認を招く表現だ。

小泉、林両氏を中傷するこれら3本の動画は、高市陣営がSNS上にバラまいた大量の動画のうち、ほんの一部なのだ。
「動画作戦」を牽引したのは、高市氏の最側近である公設第一秘書・木下剛志氏(高市早苗事務所長)らだ。木下氏は、のちに動画作成の主力を担うことになる男性に対して、メッセージで様々な依頼や共有事項を送っている。例えば、9月26日にはシグナルにて、先の「真実の政治」の動画を〈これからアップしてアカウントを送付致します〉と予告しているのである。

やりとりの相手方の男性とは、起業家でサイバー分野の技術者である松井健氏。暗号資産「サナエトークン」の開発に携わり、「週刊文春」4月9日号で暗号資産をめぐる高市事務所側との連携を実名告白した人物でもある。
〈笑顔の裏に冷酷な売国計画〉
その取材当時、松井氏はトークン発行に至った背景として、高市事務所との日頃の密な連携の実態を説明し、「SNSでの動画キャンペーンについても、高市事務所を手伝ってきた」などと証言した。この証言および裏付けとして提出を受けていたLINEやシグナル、ショートメッセージの履歴や動画などをもとに、「週刊文春」が独自取材を進めた結果、高市陣営の関与が明らかになった。
松井氏の証言によれば総裁選開票から10日前の9月24日、知人から木下秘書を紹介されたという。
「『総裁選で高市陣営が苦戦しているので手伝ってあげてほしい』と依頼されました。翌日にすぐチームに参加し、高市事務所とWeb会議を開きました。陣営の現状をヒアリングすると、木下秘書から『すでに陣営でも切り抜き動画の作成を業者に頼んでいるが、数字が伸び悩んでいる』『力を貸してほしい』とのことだった」(松井氏)
当時、高市陣営が作ったアカウントの1つが前出の「真実の政治」だ。松井氏は更に高市陣営の「動画作戦」に磨きをかけるため、AIやネット戦略の知見を活かしたという。
「選挙の流れを決めるのは、質より数。私たちがAIによってショート動画を大量に作って、投稿・運用することになりました。投稿先はTikTok、Instagram、X、YouTubeです。もともと陣営の意向もそうでしたが、対立候補へのネガティブな内容のほうが、苦戦からの逆転のために、より効率的だともアドバイスしました」(同前)
当時、総裁選レースにおいてリードしていたのが小泉氏だ。開票2日前の夜ですら小泉氏の「優勢が伝えられる」(時事通信)と報じられるほどだった。
「一方で、『林氏もダークホースだ』という木下秘書の意見もありました。そこで、『小泉氏へのアンチを7割、林氏アンチを1割、高市氏のポジティブな動画を2割作る』ことで一致したのです」(同前)
問題の動画の中身を、さらに詳しく明らかにしよう。
前述の「真実の政治」名義の3本をはじめ、「週刊文春」は計26本の動画を入手した(「週刊文春 電子版」で実際の動画を公開中)。
ある動画では「政治改革」と書かれたフリップを持つ小泉氏の写真に、こんなナレーションが入る。
〈実務経験ゼロ 耳障りの良い言葉しか言えない「客寄せパンダ」〉
小泉氏が掲げた解雇規制の見直し政策を批判する別の動画では、次のようなセリフが流れる。
〈彼の本音は外資や大企業のために労働者のクビを切りやすくすることです さわやかな笑顔の裏で私たちの雇用と生活を破壊しようとしている〉
〈「真の狙い」が判明しました(略)彼を担ぐグローバル資本は、あなたを簡単にクビにし、会社の利益を海外へ吸い上げる気です 笑顔の裏に隠された冷酷な売国計画〉
更に、別の動画では小泉氏を〈「結局は世襲の操り人形」と見透かされています〉〈長老の言いなりになる空っぽの神輿〉と形容していた。

一方、高市氏を取り上げる動画は、すべてが礼賛だ。
〈誰にも忖度しない、圧倒的な実行力〉
〈覚悟と圧倒的な情報量に基づいた交渉力を持つリーダーは誰か 高市早苗は、決してブレない〉
〈国民を実験台にするエリート政治家に国は任せられない あなたの生活と雇用を守る盾 高市早苗〉
使用される高市氏の写真は、青のスーツに身を包んで颯爽と歩く姿や、微笑む様子など、ポジティブなものだ。小泉氏批判動画の最後に高市氏への賞賛が挿入されているものもあった。


「投稿数は、1日およそ100本から200本でした。当時TikTokなどで“小泉進次郎”と検索すると、表示される結果の半分くらいが自分たちの作った動画だった、という印象です」(松井氏)

その成果は10月4日の総裁選開票日に明るみに出た。下馬評を覆し、高市氏が第1回投票でトップの183票を獲得したのだ。前出の政治部記者が言う。
「高市氏の勝因の1つは、31の都道府県で、地元の党員票1位を獲得したことです。国会議員の中には、地元党員の空気感を見て態度を変えた議員も少なくなかった」
10月、高市氏は第104代内閣総理大臣の座に就き、憲政史上初の女性首相が誕生したのだった。
陣営は歓喜に沸いた。
「私たちは結果が出たその日のうちに、ほぼ全てのアカウントを消去し、痕跡を消しました。総裁選の後、投稿数なども木下秘書に報告した。『いままで色んなところにネット対策頼んできたけど、松井さんがダントツですわ』『また次もよろしく頼みます』と言われました」(松井氏)
ちなみに総裁選の最中には、小泉陣営の「ステマ」を「週刊文春」が報じて騒動になった。高市氏を想定してか「ビジネスエセ保守に負けるな」とのやらせコメントも存在した。
当時、討論番組で意見を求められた高市氏は「(他の候補者と)同じです」と言葉を濁した。だが高市陣営はその裏で、さらに苛烈な中傷を行っていたのである。
しかも――高市陣営の「動画作戦」は、総裁選だけで終わらなかった。
今年2月の衆院選でも、高市陣営は同様の行為に及んだのだ。
解散から僅か16日で投開票という史上最短の選挙選。公示日前日の1月26日に早速、松井氏がショートメッセージでこう高市氏の秘書に連絡している。
〈明日から切り抜き部隊を動かします。明日の午前中15分程お打ち合わせ出来る時間はございますでしょうか?〉
木下秘書がこう返す。
〈明日は初日で街宣車の送り出しがあるので、11時半頃には大丈夫かと思います〉(同日のショートメッセージ)
初日から「動画作戦」の打ち合わせをしていたのだ。
「話し合いのテーマは、動画の“ターゲット”でした。総裁選では自民党内にライバルがいましたが、党総裁として率いる衆院選では野党が敵になる。そこで、選挙直前に発足した中道改革連合の大物議員たちへの“ネガティブキャンペーン”を張ることで一致しました」(松井氏)
再び「部隊」が動き出した。翌日から木下秘書は、メッセージ上で具体的な中道批判を次々と依頼する。
〈奈良1区の中道の馬淵は、選挙対策委員長でありながら、近畿比例名簿で何と公明党枠の下に自分だけ単独6位で、他の仲間はその下に横並びとなっており、自分だけ安全圏に身を置いているとネットで大炎上しているそうです。下記に書き込みコメントを添付しますが、これらも拡散願います〉(1月27日のショートメッセージ)
〈安住のポケットに手を突っ込んだ演説、公開する事を前提に撮えているのに足を組んでの食事、とても日本人の道徳心とは思えません。皆さんに知らしめてやって下さい〉(原文ママ。2月4日のショートメッセージ)
この「足を組んでの食事」とは、安住淳氏がSNSに投稿した選挙風景だ。
「車の中でクリームパンを食べる動画です。最後に数秒ほど足を組み、その瞬間の画像が出回って『態度が悪い』『横柄だ』などと炎上した」(地元記者)
こうした依頼から、野党批判動画が続々と作成された。まず馬淵澄夫氏に対しての動画では、次のようなナレーションが。
〈改革を口にする彼の背後で古い支援団体と既得権益が密かに祝杯を挙げています 彼が権力を握れば行き過ぎた労働規制が復活し日本の経済成長は完全にストップします〉
岡田克也氏についても、
〈暴露 「庶民派」を気取る彼の背後には 彼の一族が支配する巨大流通資本の影があります 彼が裏で進める規制緩和の本当の狙い それは地方の商店街を根絶やしにし巨大スーパーだけが生き残る「弱肉強食の国」を作ることです 真面目な仮面に隠された冷酷な既得権益 あなたの街が食い物にされる〉
〈息を吐くように嘘を吐く 「ミスター真面目」〉
岡田氏の親族が経営する大手流通グループ「イオン」を指すのだろうか。

また中道改革連合についての動画では、〈中道を自称する政治家は耳障りの良い言葉で「決断」から逃げ続けます〉と非難。枝野幸男氏を〈プロのクレーマー〉と呼ぶ動画も存在した。
「ナレーションはAI音声。写真とAI生成のイメージ図を組み合わせ、ほぼ自動で大量生産し、様々なアカウントを使って投稿していました」(松井氏)
選挙結果は周知の通りだ。中道改革連合は大敗北を喫し、議席は167から49にまで激減。安住、馬淵、岡田、枝野四氏が落選した一方、自民党は公示前に比べ118議席増の316議席と圧勝した。
「選挙後、NHKやTBSなど各メディアは“高市旋風”の背景として、SNSやネット動画で高市氏が強く推され、影響を与えたとの見方を報じた。逆に惨敗した中道では、『ネット戦略の充実を』などと執行部に求める声が党内で相次ぎました」(政治部デスク)
投開票から一夜明けた2月9日。午後1時頃、木下秘書は松井氏にこんなお礼のショートメッセージを送っている。
〈この度も大変お世話になり、心より感謝申し上げます。自民党過去最高の議席数を賜り、旧立憲民主の害獣を沢山駆除する事ができました。しっかりと未来に向けた国作りを進めてまいります〉

これが高市陣営による「動画作戦」の全貌だ。松井氏本人に対し、改めて取材を申し込んだところ、期限までに返答がなかった。後日、代理人を通じてこうコメントした。
「高市早苗首相の政治理念は尊敬していますし、心から応援する気持ちは今も全く変わりませんので、改めて取材に応じることは控えさせていただきます」
高市陣営から標的にされた当事者はどう受け止めるのか。まず安住氏に訊いた。
――クリームパン動画で炎上したが、実は高市陣営が拡散していたようです。
「へぇーっ……!!」
驚いた後に、続けた。
「本当に残念です。防ぐ術がなく、打ち返すことができませんでした」
「民主主義にとって危険な状況」
次に馬淵氏に訊くと、
「酷いね、とんでもないね。ネガティブキャンペーンを受けているとは思っていたが、こんなおどろおどろしいものにエネルギーを割くなんて」
動画を見た岡田氏は、「こうした動画に(選挙区の)三重3区の人はあまり影響を受けないと思っていましたけど、結果を見ればそうではなかったんだよな……」と呟く。
一方、高市内閣に入閣している防衛相の小泉氏と、総務相の林氏にも訊いた。

林氏は文書でこう回答。
「総裁選におけるご質問のリーフレットの送付につきましては当事務所では全く認識しておりません(略)また、総裁選の際、ネット上でさまざまな動画や投稿などがあったことは承知していますが、個別詳細については把握しておりません」
そして小泉氏も、文書で主に次のように回答した。
「昨年の自民党総裁選挙中を含めて、さまざまな投稿があったことは承知しているところです。通常の選挙の場合も含めて、このような虚偽の投稿が民主制に悪影響を与えているということは広く認識されているところです」
他方、一連の動画に高市陣営の関与が判明したことを伝えると、両氏ともその点への言及は避けた。
では、高市陣営の木下秘書はどう振り返るのか。奈良県内で直撃した。
――「小泉さん、無能」という動画を作りましたか?
「……」
――躍動感のある内容で。
「しつこい、しつこい。なんとでも書き。答えないから、なんとでも書いて」
高市首相に宛てて詳細な質問状を送付すると、次のように回答があった。
「高市事務所及び高市陣営においては、2025年自民党総裁選及び2026年2月衆議院選挙において、高市早苗公式アカウント及びチームサナエのアカウントでのSNSによる発信は行ったが、それ以外のアカウントでの発信は行っていない。また、他の候補者に関するネガティブな情報を発する、あるいは、そのような動画を作成して発信するといったことは一切行っておりません」
SNSと政治の関わりに詳しい鳥海不二夫・東京大学教授(計算社会科学)が話す。
「いま米国では、トランプ大統領が自身発のSNSを作るなど、政治家がネット上で政治的主張やキャンペーンを行う機会が増加しています。日本も含む世界的な現象として、SNSでの発信が政治的な争いや選挙戦において、非常に効果的かつ影響力が強くなっているのです。情報空間を“ハッキング”(高度に利用)できる陣営が有利な中で、そこにニセ情報や誹謗中傷まで含まれているとすれば、民主主義にとっては非常に危険な状況です」
首相就任につながった総裁選、そして衆院選を通じて、高市陣営が密かに手を染めていたSNSの「動画作戦」。その実態について、高市首相は自ら「真実」を語るべきではないか。
source : 週刊文春 2026年5月7日・14日号
他の記事を読む
読み込みに失敗しました





お気に入り記事