30年程声優をやっているが、アフレコ現場で大きな事件に遭遇したことはない。勿論小さな事件は沢山あるが、書いて面白がれる程のものはない。アフレコ現場というのは大体スムーズに事が運ぶものなのである。ただ、あのダメ出しは一体何だったのだ?と今でも思うものがある。

 アニメの作品には、監督がいるのだが、僕ら声優が一番接する機会が多いのが音響監督だ。監督やプロデューサーの意向を汲み、芝居の演出をしていく。アフレコ現場を進め、取り仕切っていく役割。

 随分昔の話だが、ある厳しいと評判の音響監督さんの現場に参加した。その音響監督さんとは初めまして。作品はSF物だったが、僕がその時演じた役は侍っぽい役。本番終わり、すかさずダメ出し。

「津田君、腰にね、紐巻くでしょう」

「はい(ん? どういうこと?)」

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source : 週刊文春 2026年7月2日号