またしても悲願のトーナメント勝利はお預けとなった。だが、グループを危なげなく突破し、サッカー王国・ブラジル相手に先制したチームを作り上げた手腕は確かだ。日本屈指の“名将”の起伏に満ちた指導者人生を辿る。

 23年前の11月29日、仙台へ向かう東北新幹線の車内で、当時のJ1ベガルタ仙台統括部長、石井肇氏は頭を悩ませていた。

「もう間に合わねえな……」

 数時間前、ベガルタはシーズン最終戦を引き分けで終え、J2降格が決まったばかり。石井氏は、あるベテランに戦力外通告をする必要に迫られていた。人生に関わる通告だが、スケジュール上、然るべき場所で告げるのが難しかった。

 そこで、やむなく選手を新幹線のデッキに呼び出し、戦力外を伝えた。今に至るまで数百人の肩を叩いてきた石井氏だが、「最も相応しくないことをしてしまった」と今でも悔やむ。

「逆に、『ベガルタ仙台の未来が良くなるよう祈っています』ということを言われました。戦力外通告を受ければ泣いたり悪態をついたりする選手もいる中でね。ドーハの悲劇も経験した元日本代表が、そんな立ち振る舞いをできるなんて、『ちょっと恐れ入ったな』っていう感じでした」(石井氏)

 そのベテランは翌年から指導者としての道を歩み始める。日本代表監督、森保一の指導者人生は、屈辱的と呼ぶべき“クビ”通告から始まったのである。

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source : 週刊文春 2026年7月9日号