【前回までのあらすじ】ディレクターの加藤が芸人のウォッチャー目黒に犯されたことを知った『フラッシュ11』のキャスター・鷲尾粧子(50)と加藤の親友の「週刊文春」記者・速水理央(34)。目黒は十八年前に理央の親友たちをもレイプしていた。粧子は独断で、同番組でゲストの目黒にその証拠映像を突きつけ追及。スクープに、SNS並びにプロデューサー・杉山らも沸いた。
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〈せめて今夜ぐらい、何も考えずにゆっくり休むこと。明日からは輪を掛けて忙しくなるだろうからね〉
じゃあまた、と言って、通話はあっさり切れた。
手の中の画面を見おろす。時間にして三分足らず、たったそれだけの会話にこれほど救われるとは。この先何がどうなろうとも、自分にとっていちばんの勲章は、辺見鷹文の褒め言葉だ。
目の奥が揺れて熱い。鼻の奥も水っぽくなる。ぐっとこらえ、バッグにしまおうとした薄い板が再び振動を始めた。何か言い忘れたのかと見れば、辺見ではなかった。
耳に当てるより先に、
〈もしもし、鷲尾さん?〉
前のめりの若い声が聞こえる。
こんばんは、と粧子は言った。「さっきの、観ててくれた?」
〈もちろんです。でも、その前に……〉速水理央の声が震えた。〈たった今、加藤の病院から報せがあって〉
「えっ」
〈意識が、戻ったそうです〉
ひしゃげるほど強く握りしめたスマホを耳に押しあてたまま、粧子は後部座席のヘッドレストに頭をもたせかけた。大きく息を吸い込み、細切れに吐き出す。
〈まだすぐには会えないけど、何とか大丈夫みたいです。頭ははっきりしてるって〉
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source : 週刊文春 2026年10月29日号
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