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牧 秀悟(横浜DeNAベイスターズ 内野手)「凄いインパクトのある選手が取れると思っていたが、自分も狙っていきたい」|鷲田康

野球の言葉学 第588回 

鷲田 康
エンタメ 社会 スポーツ

 今年の新人王争いはハイレベルだ。まず飛び出したのが、23本塁打を放って球団の新人最多本塁打記録を更新した阪神の佐藤輝明内野手(22)と、開幕からクローザーを務めてオリンピックでも金メダルの立役者となった広島の栗林良吏投手(25)。そこにジワジワと迫って並んだのが、DeNAの牧秀悟内野手(23)という構図だ。

中央大からドラフト2位でDeNAに入団した

 牧は外国人選手不在の開幕戦に「三番・一塁」で先発。4月末までの約1か月で、打率2割8分8厘の6本塁打をマークした。その後は先発落ちもあったが、五輪明けからは再ブレークして、8月25日の阪神戦では新人史上初となるサイクル安打を記録した。

「佐藤のような派手さはないですが、中大時代から広角に長打も打てる打撃技術は評判でした。安定性に欠け、三振の多い佐藤より実戦的という声もありましたが、プロ1年目は結果的にはその通りになっています」(放送関係者)

 9月18日時点で、牧の成績は打率2割8分2厘の18本塁打。9月に35打席連続無安打で二軍落ちした佐藤に代わり、24セーブの栗林とマッチレースの様相となっているのだが……。実は新人王は牧でも栗林でもなく、佐藤で決まりという声が聞こえてくるのである。

“組織票”で佐藤に?

「理由は選出方法ですね」

 こう語るのはスポーツ紙のNPB担当記者だ。

「新人王は全国の運動記者クラブ加盟社で、5年以上のプロ野球担当経験のある記者の投票で決まりますが、投票に地域色が出るのが当たり前になっています。多少、成績的には劣っていても、地元チームの選手に『取らせたい』と組織票のような形で、その球団のある地区クラブの記者の票が集中する。今年は栗林には広島の票が、佐藤には関西運動記者クラブに所属する記者の票が集まるのは確実。ただ、票数的には関西票が圧倒的に多い。それに比べて地域色の薄いDeNAの牧の場合、地元票と呼べるのは神奈川新聞とテレビ神奈川くらい。その“組織票”の差で、佐藤が新人王を取ると言われています」

 もちろん投票で、佐藤に票を投じることがおかしいというわけではない。チームがBクラスに沈んでいる牧や栗林の成績より、優勝争いを演じる中での佐藤の数字には価値があるという選考基準を語る記者もいる。ただ、それなら優勝争いが熾烈になった9月の佐藤の大失速は、大幅な減点材料のはずである。

 成績だけなら、佐藤だけではなく牧や栗林に票が割れるのが当たり前のはずだ。ところが「テル(佐藤)で決まりやろ!」と、関西の記者の票が集中することで新人王が決まるとなると、どうにも納得できないものがある。

「凄いインパクトのある選手が取れると思っていたが、自分も狙っていきたい」

 新人王レースに向けた牧の言葉学だ。

 凄いインパクトというのは、前半戦の佐藤や金メダリストの栗林を意識したものだろう。ただ牧も新人初のサイクル安打を記録して、他の二人に負けない勲章を持っている。何より打者としての成績は、佐藤を凌いで一番手にいることを忘れてはならないはずだ。

 新人王は人気投票ではない。基本的にはチーム成績も無関係だ。選手の残した数字で客観評価されてこそ、賞の価値はある。そのことを肝に銘じた投票をして欲しいし、ファンもそういう視線で、新人王争いの行方を見守って欲しいと思うのである。

二軍降格前の打率は2割5分4厘に下がっていた佐藤

source : 週刊文春 2021年9月30日号

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