週刊文春 電子版

竜と虎

人生エロエロ 第456回

みうら じゅん
エンタメ 芸能

 人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。

 父親の影響で野球は巨人だったけど、GSは断然、タイガース・ファン。

 いや、正確にはグループサウンズのザ・タイガースが好きだったわけで、シングル盤のレコードを何枚か買って貰っていた。

 それにザ・タイガースのメンバーがみな、京都府出身ってとこにも親近感があった。

“雨がしとしと日曜日♫”

 僕がおセンチをこじらせたのも彼らの3枚目のシングル『モナリザの微笑』から。そのメロウなメロディを聞くと、メロメロ。わけもないのに“涙ポロポロ日曜日♫”だったあの頃、

「ピーとサリーとタローは北野中学、トッポは山城高校出身なんやて」

 そんな驚くべき事実を小学校のクラスメイトから聞いた。それは彼らの実家がものすごい近所にあることを意味したからだ。

 いかにしてその在処を捜し出したかは記憶にないが、たぶん既に近所では噂が広まっていたのだろう。

 僕は雨がしとしとじゃない日曜日には家の前で例の壁当てひとり野球(実況アナウンサーも兼ねた)に興じながら、ファンの女子が尋ねてくるのを待っていた。

「ねぇ、ボク、ちょっといいかな?」

“ほら、きた!”

 彼女らはザ・タイガースの実家を聖地と崇め、巡礼をしていたのである。「知ってるけど」と、わざとぶっきら棒に返すと必ず「教えて欲しいんだけどォー♡」と、甘えた声でお願いしてくる。これが実に堪らない。

「ええけど今回は特別やで」と、毎回言ってその聖地巡礼のガイドを務めるのが僕の至福の時間。

「ありがとう♡ 親切に案内までしてくれて」

 ほら、よく海外を旅した女子が現地のガイドと恋仲になるって話、あるでしょ。流石に小学生でそんなことまでは考えてなかったけど、見知らぬ女子の前で得意気だったことは確か。

 それから随分、時が流れ、僕は30代前半になっていた。その頃、連載してたファミコン雑誌の担当編集者から「クソゲームの対談ページに、すぎやまこういち先生が出て下さることになりました」と、連絡があったのだ。

“雨がしとしと日曜日♫”

 僕の頭の中でまた、メロメロディが流れ出したのは言うまでもない。だって、ザ・タイガースの曲はみな、すぎやまさんが手掛けてらっしゃったんだもの。

 しかし、選りにも選ってクソゲーム(以降は“クソゲー”)対談に何故?

 ちなみにそれはクソのようなゲームの意。“そこがいいんじゃない!”と、一応、愛を込めて考えた造語だと申し上げておく。

「先生は、“ドラクエ”の音楽でも有名ですが、ファミコンソフトのマニアでもあられるんです」

 その編集者の言葉は、すぎやまさんが対談当日、持って来られたアタッシュケースで十分に理解した。

「いや、ちょっと中を改造してね」と、おっしゃるそれは初代007のよう。ウレタンの仕切りがあり、そこにびっちりソフトが並んでた。

「ス、スゴいですねぇー」

「今回はクソゲームで揃えてきたんだからぁ」と、まるで子供のようにおっしゃる。

 恒例のベスト1を決める段になり「せーの!」で、出し合ったのだが、何とそれが同じソフト! 抱き合うくらいの勢いで握手を交した。「だってコレ、パーツを100個集めんの絶対、無理だもんな(笑)」

 そんな天才作曲家との思い出まで詰まったクソゲーム、僕は今でも大切に保管している。
 

 

source : 週刊文春 2021年10月28日号

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