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なぜワクチン接種を嫌うのか|池上彰

池上彰のそこからですか!? 第512回

池上 彰
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 日本でのワクチン接種は3回目がなかなか進まないことが問題になっていますが、これは「接種したいのに政府や自治体の態勢が整っていない」ことが発端です。それに対してアメリカでは、そもそもワクチン接種を望まない、あるいは忌避する人たちが大勢いることが報道されています。結果、アメリカでの感染者は再び激増しています。これに危機感を持ったバイデン大統領は、従業員が100人以上の企業に対し、従業員にワクチン接種か週1回の検査を義務付けようとしましたが、連邦最高裁は先月、この施行の差し止めを命じる判決を下しました。

 その理由は、義務化された場合、管轄することになる政府の労働安全衛生局には「公衆衛生を規制する権限はない」からだというのです。

 日本ではワクチン接種を政府が推奨はしていますが、義務化しようという動きまではありません。そのせいなのか、「ワクチン接種反対」を主張する人はいても、それほどの問題にはなりません。

 ところがアメリカではマスクやワクチン接種の義務化をめぐって対立することがよくあるのです。

 今回の連邦最高裁の判決では、共和党の大統領によって任命された保守派の判事6人が義務化反対、民主党の大統領によって任命されたリベラル派の判事3人が義務化容認と判断が分かれました。

 アメリカ国民についても、民主党支持者の多くがワクチンを接種しているのに対し、共和党支持者の接種の割合は高くありません。ワクチン接種の有無は支持政党によって大きく分かれているのです。

 どうしてなのか。アメリカでワクチン接種に反対する人がいるのは、今回に限りません。『自由の国と感染症』(ヴェルナー・トレスケン著、西村公男・青野浩訳)によると、実は天然痘のワクチン接種をめぐっても対立が起きていたというのです。

 たとえば1918年にノースダコタ州最高裁判所の判事に選出(同州の裁判所判事は州民の選挙で選出される)された人物は、州内のある教育委員会が入学前の生徒に天然痘のワクチン接種証明の提示を求めていたことに対して、これを違法と断じました。判事によれば、〈ワクチン接種が実施され続けたのは、権威と利益に目がくらんだ医師らによって「宗教的教義として広められ、採用された」からであり、また親たちが無知すぎて、子供たちがどんな医療行為をされているのか理解できなかったからであった〉というのです。

 この判決の結果、ノースダコタ州ではワクチンを接種していない子供が公立学校に通うのを州当局は拒否できなくなり、接種を強制した他の州に比べて天然痘による死亡率が約10倍も高かったというのです。

〈当時すでに世界で最も豊かで、科学技術の最も発達した民主主義国家であったアメリカは、天然痘をはじめとする伝染病の根絶において、貧しくまたしばしばアメリカほど博愛主義的でもない社会に遅れをとっていた〉

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source : 週刊文春 2022年2月17日号

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