昨年10月、プリンストン大学の上席研究員・眞鍋淑郎氏が、気象学の分野でノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しい。その中で多くの人の印象に残ったのは、彼が米国籍を取得しており、アメリカの研究環境の素晴らしさをしきりに語っていたことではないだろうか。
楽天グループでの事業を通しても、アメリカと日本の研究環境の違いは常に実感するものの一つだ。
アメリカでは企業や研究機関によるR&Dの成果を、いかにグローバルにマネタイズするかが常に考えられている。そして彼らは様々な分野の基礎技術の研究に桁違いの資金を投入しているが、その根底にある考え方や価値観そのものが日本とは大きく異なっているように思う。
例えば、がん治療における楽天メディカルの「光免疫療法」は、もともとアメリカ国立衛生研究所(NIH)で開発された技術が元になっている。NIHはアメリカの保健福祉省公衆衛生局の組織であり、研究開発に使用される資金には多くの税金が投入されてきた。
けれど、そのような研究機関の技術のアウトソース先が、日本人の出資した楽天メディカルという企業だったとしても、彼らは「他国の企業になぜ技術供与をするのか」といったケチなことは言わない。
そもそも僕らの生活やあらゆる事業のインフラであるインターネットだって、もとはARPANETという軍事利用を目的としたパブリックプロジェクトだった。アメリカ国防総省が中心となって開発した全米規模のそのコンピュータネットワークが、後にインターネットとして発展してきた歴史はよく知られている。このように自国の公的な機関で開発された技術をオープンに利用させ、新しいイノベーションにつなげていくという発想は、アントレプレナーシップ(起業家精神)を重視するアメリカの価値観を色濃く反映したものだ。
30兆〜40兆円の資金が
また、そうしたアメリカにおける研究環境を見ていく上で、あまり日本で一般には語られていないのが、「フィランソロピーエコシステム」の仕組みだと思う。すなわち、民間による「寄付」や「財団」の存在が、R&Dの分野に与えている影響の大きさだ。
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source : 週刊文春 2022年3月10日号