棋士は移動が多い職業……と先週書いたが、3月の私は生涯初と言えるほどの遠征ラッシュだった。藤井聡太新王将のお祝いで島根県の三瓶町に行き、翌週から金沢、大阪(対局)、名古屋、東京、博多とほぼ毎日移動していたのだ。

 最後の東京→博多は陸路を使って約5時間。1週間の総移動時間は30時間を超えていた。

 このご時世なので会食の予定も殆どなく、観光もゼロ。食事はもっぱら駅弁である。温かいみそ汁や家の食事が恋しい……そんな数日間であった。

 タイトル戦で全国を飛び回る藤井竜王はもっと大変だろう。名古屋で公式戦の対局ができれば移動も楽なのに……願っても詮ないことを考える私。しかし、なんとそれが現実になったのだ。

「日本将棋連盟、名古屋対局場(仮称)を開設へ」こんな記事が載ったのは3月16日のことだ。東京、大阪の将棋会館に続く、三つめの常設の対局場が誕生するのだ。

 場所は名古屋駅前の高層ビル「ミッドランドスクエア」25階のトヨタ自動車オフィス内。JR名古屋駅から徒歩5分。立地も最高である。

 対局開始の予定は6月で、順位戦で使われる。藤井竜王は九局中六局を指す予定とか。もちろん私や他の東海在住棋士、東西の棋士も使うことになるだろう。将棋界全体にとっての朗報だ。

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source : 週刊文春 2022年4月7日号