ロシアのウクライナ侵攻は、プーチン大統領が、NATO(北大西洋条約機構)の東進を阻止しようと始めたものですが、まさかのオウンゴール。これまで敢えてNATOに加盟しようとしなかった北欧のフィンランドとスウェーデンが、ロシアの脅威を見て、NATO入りの意向を示すようになりました。NATO拡大を阻止するつもりが、かえって拡大を促すことになりそうなのです。

 それにしても、ロシアの西隣のフィンランドは、ロシアと約1300キロも国境を接しています。それなのに、なぜこれまでNATOに加盟してこなかったのか。それは、過去にソ連の侵略を受けたことがあり、敢えてソ連やロシアを刺激しないようにしてきたからなのです。

 ここでヨーロッパの歴史を振り返ってみましょう。時は1939年10月のこと。ソ連の独裁者スターリンは、ナチスドイツを警戒し、西の守りを強化するため、フィンランドに対して「領土の交換」を持ちかけます。

 当時のフィンランドとの国境は、ソ連にとって「革命の聖地」だったレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)に近過ぎるという危機意識があったのです。このあたりの恐怖感というのは、私たちには想像し難いのですが、ロシアは過去にナポレオンの侵略を受けたことがあります。また1917年のロシア革命後、近隣の資本主義諸国が革命つぶしのために軍隊を送り込んだことも忘れてはいませんでした。当時は日本も「シベリア出兵」をしたほどですから。

 ソ連の「領土の交換」要求は、ソ連とフィンランドとの間にあるレニングラード湾(フィンランド湾)にある四つの島やフィンランド領のカレリア地方をソ連に引き渡すこと。

 カレリア地方にフィンランド軍が設置した防衛施設を撤去すること。フィンランド西部でソ連にとっても湾の入り口に位置するハンコ半島を30年間ソ連に貸し出し、ここにソ連海軍の基地の設置と約5000人のソ連軍兵士の駐留を認めること。

 さらに、駐留ソ連軍兵士の交代のためにフィンランド領内を鉄道で移動する通行権を認めよ、というものでした。

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source : 週刊文春 2022年5月19日号