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半年くらい続いた“社会性を身につけよう”ブームが、突然終焉を迎えた。この連載が始まって以来、主にビジネスコーナーに陳列された本を読み漁っていたのだけど、そこに置かれた『反応しない練習』(草薙龍瞬 KADOKAWA 1300円+税)によって、本来の自分へと引き戻されることとなった。
ブッダが説く「悩みを解決するための合理的な考え方と具体的な方法論」を、僧侶である著者が解説するこの本で、思わぬ読書体験をした。喫茶店で本を読み進めていると、突然頭の中でバキン! と音が鳴った気がした。パッと窓外を見ると、目の前にひとつの看板があった。何故かそこから目が離せなくなったのだ。
続きを読もうと思っても、もう無理だった。今ここに目の前に看板があり、それをただそこにあるものとして見ている。それ以外、何もできない。したくない。する必要がない。これ以上ないほど頭がクリアになって、それまで抱えていた不安が一切晴れた気がした。
仏教の言葉を借りれば、いわゆる“悟り”の状態に近かったのかもしれないけれど、確かなことはわからない。明確なのは、“未来を見据えて不安に覆い尽くされていた心が、たった今、ここだけを認識し、それ以外何も感じられなくなった状態”になったこと。そして、とても心地よく多幸感に満ち溢れたものだったこと。トリガーとなったのは、「自分の中にある欲求を、ただ在ると認識すること」といった内容だった。
私は一体、何を欲しているのだろう。蜘蛛の巣のように張られたあらゆる不安をかき分けて辿り着いたのは、承認欲求だった。愛されたいという、とてもプリミティブな欲求だった。
「私には今、承認欲求がある」。それ以上でも以下でもなく、否定も肯定もすることなく、ただじっと見つめたら、先に述べたような感覚に陥ったのだ。
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source : 週刊文春 2022年6月23日号