成瀬巳喜男監督の『娘・妻・母』(1960年)を観た。

 山の手の中産階級のホームドラマで、タイトルは夫が死んで出戻りになった長女(原節子)、長男の嫁(高峰秀子)、母(三益愛子)を意味する。ほのぼのした映画ではなく、長女が夫の生命保険として受け取った100万円に兄や妹が群がっていく。当時は大卒初任給が1万2000円前後(現在は約22万円)だった時代だから、100万円は1800万円くらいになる。その金をめぐって家族が解体していくのだが、その前に、最後の幸福な瞬間として母の還暦を一族勢ぞろいで祝うシーンがある。

 還暦?

 筆者も今年の7月5日に還暦だけど、この映画での三益愛子は本当にもう、おばあちゃんに見える。もっと驚いたことに撮影当時の三益愛子はまだ40代だった。後半で登場する、枯れ切った老人、笠智衆はまだ56歳だった。

 自分はいつの間にか、クレヨンしんちゃんの父ひろし(35歳)を追い越し、天才バカボンのパパ(41歳)を追い越し、磯野波平(54歳)を追い越し、笠智衆もとっくに追い越していた。感覚としては「追い越す」というより、老いに追われて逃げ続けたが、ついに息が切れて捕まる感じだ。

 しかし、ひたすらダッシュで逃げ続ける男がいる。

 トム・クルーズ。筆者より2日早く、1962年の「7月3日に生まれて」からずっとイケメン街道を爆走してきた彼の『トップガン マーヴェリック』を観た。

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source : 週刊文春 2022年6月23日号