郊外の家を出て都心の息子宅に仮住まいをし、そこからデイケアに通うことになった母親。「試しに半年くらい、老人ホームで、お父さんと二人……」。そう語っていたが、実はそんな条件を満たす施設はどこにもなかった――。
(じんのひろのり 1973年生まれ。2006年から「週刊文春」記者。2017年に甘利明大臣への贈賄業者の実名告発、2019年に片山さつき大臣の国税口利き報道で、2度「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」スクープ賞を受賞。昨年「週刊文春」を卒業し、フリーランスに。)
「おはようございます」
午前9時半、白いワゴン車が自宅の前に停まると、車内から介護施設のユニフォームを着た女性が明るく声をかけた。父親に見送られながらワゴン車に乗り込んだ母親(74)は、不安そうな表情を浮かべている。
要介護者である母親がデイケアと呼ばれる通所型リハビリテーション施設に通うことになったのは今年始め。東京の郊外に住んでいた両親が、私の自宅で仮住まいを始めてから、まもなくの頃だ。母親を担当することになった新しいケアマネ(ケアマネジャー)の提案で、週に2回、デイケアに通うことになったのだ。
そんな母親の1日は、朝、施設の職員がワゴン車で迎えに来てから始まる。
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source : 週刊文春 2022年8月4日号