「売れる」ために懸命に努力することをレゾンデートルに走り続けてきたスターが、ぶち当たった10万枚の壁。沢田研二の1983年に、何が起こっていたのか。
東京ディズニーランドが開園し、任天堂がファミコンを発売した1983年の大晦日。1年が終わろうという時に、NHKホールでは「紅白歌合戦」が中継されていた。白組6番目、目も眩むようなサーチライトを背に、沢田研二は5人のバンドメンバーを引き連れて現れ、光と闇が交錯する中、「晴れのちBLUE BOY」を全身でシャウトした。
早川タケジがこの時のために制作したジュリー&エキゾティクスの衣裳は、梵字を金糸で刺繍した、大きく肩の張った黒のアーミーコートで、ベルトが光り、ジュリーが激しく動くと腰から下がスカートのように広がり、揺れた。赤をアクセントにした黒い帽子は、フルメイクしたスターのノーブルな美貌を際立たせて、無性な存在に見せた。男の記号と女の記号がひとつになった刺激的な出で立ちは、秀作揃いの早川作品の中でも鮮烈な印象を残す。
総合司会のタモリが「歌う日露戦争」と呼んだシーンは、歌と演奏、衣裳、演出ともに飛び抜けてエッジが効いて、紅白史上でも白眉と言える場面である。ライトでメンバーの衣裳が焦げたというエピソードを残し、新しく設けられた紅白の第一回の金杯を受賞。審査員席には、『ルンルンを買っておうちに帰ろう』で一躍時の人となった林真理子らと並んで、最高視聴率62.9%を叩き出した朝ドラ「おしん」の主演女優、田中裕子が座っていた。
エキゾティクスのリーダーであった吉田建にも、忘れられない一夜となった。
「あの時は興奮しました。沢田さんとバンドのメンバーが同じ衣裳で、沢田研二さえも乗り越えたジュリーという感じでした。ジュリー&エキゾティクスという形態の、最高峰のパフォーマンスだと思います」
「路線変更は絶対いや」
結成から3年弱、沢田とエキゾティクスはすっかり馴染んで、いつも一緒に行動する仲間だった。
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source : 週刊文春 2022年8月18日・25日号