人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。
「そうそう、今日、友達から聞いたんだけど、実はえんがわって、オヒョウのものだってね」
エッチを終えたベッドの中で、唐突に彼女がそんな話を振ってきた。
えんがわとは、僕が寿司ネタの中で一番好きなもの。
それを承知の上で「実は――」と、得意気に言われると余りいい気はしない。
黙っていたら今度は、
「ねぇ、今まで何のえんがわなのか知らないで食べてたんじゃないの?」
と、挑発的な発言までしてきた。
もう、流石に黙ってはいられない。僕は少し声を荒げ、
「えんがわといや、ヒラメに決ってんじゃん!」
と、言い放ったのだが、
「そんなこと、あのお寿司屋さんのメニューに書いてあったかしら?」
と、子供を諭すように聞いてきた。
確かによく行く近所の回転寿司屋にはただ“えんがわ”と書いてあるだけだ。
「考えてもみてよ。もし、それがヒラメのものだったとしても、えんがわの部分なんてちょっとしかないじゃない」
それも確かにそうだ。そんな少ししか取れない貴重な部位ならもっと値が張るはずである。
「だったら、何だよ? あのえんがわの正体って!」
僕はかなりイラついて言った。
「だから言ったじゃない、オヒョウだって」
「だから、オヒョウって一体、何だよ!?」
彼女はその時、少し間を置いた。どうやらそこまでは聞いていないとみえる。
「きっとさ、いや、たぶんアザラシみたいなやつなんじゃないかと思うんだよね」
と、しどろもどろに答えた。
「それはないだろう。第一、魚じゃないし。どこにえんがわがあるんだよ!」
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source : 週刊文春 2022年10月27日号