(おいかわみき/1969年、東京都生まれ、宮城県出身。ポーラ代表取締役社長。東京女子大学卒業後、ポーラ化粧品本舗(現・ポーラ)に入社。入社2年目で販売会社に出向。埼玉のエリアマネージャーを経て2009年に商品企画部長、12年に執行役員、14年に取締役。20年1月より代表取締役社長を務める。)
「化粧品大手で初の女性トップ」。そう大きく報じられた時にこみ上げたのは、驚きと違和感です。昭和ではなく令和の世になっても、“女性初”がこれだけ話題になるのか、と。裏を返せば、それほど女性にチャンスが与えられてこなかったということ。その現実をあらためて思い知らされたような気がしました。
2020年、ポーラ代表取締役社長に就任した及川美紀さん。大手化粧品会社初となる女性の経営トップ誕生は大きな話題を呼んだ。
遡ること半世紀、及川さんは1969年に会社員の父と専業主婦の母との間に生まれた。最初の住まいは、東京都豊島区の椎名町だった。
ここでの記憶はほぼないのですが、父が独身時代から同僚と共同生活していた借家で、隣の家のおじさんがいつも遊んでくれていたそうです。私が2歳になる前に妹が生まれ、母は妹にかかりきりだったので、きっと近所の方が相手をしてくれたんでしょうね。
3歳の時、父の転勤で静岡市に引っ越しました。街中から少し離れた集落で、屋根に鳥の巣がある古い借家でした。ここで弟も生まれ、いよいよ母は私に構えなくなったんでしょう。当時は珍しかった三年保育の幼稚園に入れられたんです。早生まれの私は体が小さく、何をやるにも皆についていけない。だから、人生最初の記憶は劣等感なんです。
劣等感から抜け出したのは年長の時、またもや父の転勤で浦和市(現・さいたま市)に引っ越してから。幼稚園の先生がお遊戯会の主役に抜擢してくれて、「私も頑張れば、みんなと同じようにできるんだ!」と自信をつけました。
当時住んでいたのは父の勤務先が借り上げていた一軒家。1階に六畳の居間と台所、2階の六畳間に父と母と弟が寝て、その隣の六畳間が私と妹の部屋。隣には妹の同級生一家が住んでいて、一番年上の私はお山の大将。小学校でも友達がたくさんできて、バラ色の時期でしたね。
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source : 週刊文春 2023年4月27日号