日本では普通に電車に乗って自由に移動ができる。楽しそうだなと思いました。|グレゴリー・ケズナジャット

新・家の履歴書 第839回

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(Gregory Khezrnejat 作家・法政大学准教授。1984年、米・サウスカロライナ州生まれ。2007年、クレムソン大学卒業後、外国語指導助手として来日。17年、同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期課程修了。21年、『鴨川ランナー』で作家デビュー。22年に発表した『開墾地』は芥川賞候補になった。)

 

 僕の生まれ育ったサウスカロライナ州のピードモントは、グリーンビル郊外の人口5000人ほどの静かな場所です。日本の地方に行くと、少し似た雰囲気を今でも感じますね。

 僕はこの町でイラン人の養父と、サウスカロライナからほぼ出たことのない母に育てられました。子供の頃から本が好きな大人しい少年で、1人でいることが多かったです。

 もちろん周囲は緑の豊かなところですから、森の中で遊んだ思い出もたくさんあります。例えば、車で20分ほどの祖父母の家には、葛の葉が季節になると周囲を覆い尽くすように繁茂していました。その中に弟と一緒に潜り込むと、そこには別の世界があるような気がして、まるで小さな冒険をしているみたいに楽しかった。この祖父母の家の葛のイメージを、後に『開墾地』という小説に書くことになるんです。

 グレゴリー・ケズナジャットさんは1984年に米サウスカロライナ州に生まれた。高校時代から日本語に興味を持ち、現在は法政大学で日本文学などを教える大学教員だ。『鴨川ランナー』で2021年に京都文学賞を受賞して小説家としてデビューし、22年に発表した『開墾地』は芥川賞候補になった。

 いま思えば、僕が「第二言語」で小説を書くようになったのは、ともに暮らしていた父の影響もあったかもしれません。77年に留学生としてアメリカに来た父は、電気工学を学び、町のゲームセンターにあるゲーム機や自動販売機を管理する会社で働いていました。

 高校を出てすぐに結婚した母が離婚した後、2、3年して会ったのが父だったそうです。生家はアメリカの郊外にある典型的な2階建ての庭がある家です。ただ、部屋にはイランからのお土産や水パイプ、タイル調の宝石箱やペルシャ絨毯があって、キッチンは南部の感じだけれど、リビングはイランテイストでした。面白い環境だったんだなと思います。友達の家に行くと、ペルシャ風のものが何もなくて、ちょっと寂しい気持ちがしたくらいでしたから。

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source : 週刊文春 2023年7月20日号

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