大久保家に導かれて鹿児島へ――そこで筆者が目にしたものとは。

 

【前回まで】慶応義塾大学の小川原正道教授の勧めで大久保利通の曾孫、利泰氏の家を訪れた筆者は、そこで世間のイメージと異なる利通の意外な実像を知る。さらに西南戦争をめぐる慰霊塔が鹿児島で新しく建てられることを教えられ、鹿児島へと飛ぶ。本連載は西南戦争で散った薩軍三番大隊長・永山弥一郎の謎多き生涯を掘り起こす「同時進行歴史ノンフィクション」である。

【2023年3月19日 鹿児島市上竜尾町・南洲墓地】

 桜島を望む高台の墓地に急に風が吹き始めた。ソプラノが響いた瞬間、苔むす墓石群が精気を帯び、一斉に身震いしたような錯覚を覚える。

 知らぬ間に鳥肌が立っていた。

 この日、私は西郷隆盛以下2023名の薩軍将兵が眠る南洲墓地で行われた「西南之役民衆殉難者惻隠之塔」除幕式に出席していた。

 ピアノとバイオリンの生演奏で奉納されたのは、モーツァルトの「鎮魂歌」第8曲「ラクリモーサ(涙の日)」。その歌詞にはこうある。

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source : 週刊文春 2023年9月14日号