新しい朝がくる。新たな花芽が枝を飾る。棋士もまた次の一局へ。いまだ成らず ――総身に青い火を宿して。

扉写真 弦巻勝

第七章 終わりなき春 其の四

 佐藤康光が再びタイトル戦の舞台で羽生善治と顔を合わせたのは2002年初めのことだった。第51期王将戦。佐藤は挑戦者決定リーグを全勝で駆け抜け、羽生のいる場所へと辿り着いた。

 あの仙台での敗北から2年が経っていた。竜王、名人という棋界の2大タイトルの獲得歴を持ち、順位戦もA級在位4期に達し、名実ともにトップ棋士となった。そんな佐藤にただ一つ影を落としていたのが1994年から羽生相手に喫しているタイトル戦7連敗であった。どれだけ自分が正しいと思う道を進み、正統派とされる戦法を指し、盤上の最善を追求してみても同じ結果になる――その矛盾について、佐藤は20代半ばから考え続けていた。

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source : 週刊文春 2023年10月12日号