【前回までのあらすじ】天童ショージの妻・静香と会った後、久代奏は天童が所属していた芸能事務所の社長・児島光男に天童の下積み時代の話を聞く。大学時代に組んだお笑いコンビ「枯葉」で人気を博し、事務所入りした天童だったが、相方が借金で飛び、ピン芸人に転向。その間も瀬尾政夫は天童を支え、敏腕マネージャーを紹介するなど都度サポートを行っていたという。
先生がご覧になったって言ってた、深夜放送のネタね。実質、あれが初めてのテレビ出演なんですけど、あのときのネタがハマってね。そこからライブでショージ目当ての客が増え始めて、何より舞台袖に芸人が集まり始めたんです。みんな感度の高いアンテナ持ってますからね。「次、こいつ来る」っていうのが分かるんですよ。俺は芸人じゃないから深い心理は分からないけど、仲間が売れるっていうのは、嫉妬と不安と嬉しさが絶妙に混じり合った、何とも言えない気持ちらしいです。
あの番組から、年を追うごとに仕事と人脈の質が変わっていって、じわじわ名前が知られていきました。大手事務所だったら、もっと早くブレイクしてたでしょうね。でも、こんな弱小でがんばったから、着実に実力をつけていったとも言えるわけで。ショージがえらいのは、全国放送の番組でレギュラーを持つようになっても、ずっと新ネタをつくり続けて、単独ライブに挑戦したことです。普通は休みたくなりますよ。営業もかなり入ってましたから、充分食べていけるし。
相方の逃亡、小さなハコの勝ち抜きバトル、オーディションを突破してテレビ出演、深夜放送のレギュラー、単独ライブ、いろんな壁を越えていって、やっと『ONE』の決勝に残った。最終十二人に残ったとき、あいつ柄にもなく泣いてましたよ。俺も痺れました。もちろん、うちの事務所からは初の決勝進出ですから。ゴールデンタイムの生放送。一世一代のビッグチャンスです。
瀬尾さんも大喜びで、焼肉に連れてってもらったみたいです。三橋と三人で朝まで飲み明かしたって聞きました。あの人、ずっとショージのこと支えてくれてたから……ちょっと、すみません……思い出すと泣けてきちゃいますね。
決勝のときは現場に行って、局のモニターで観てましたけど、もう緊張してね。「炎上保険」はライブの鉄板ネタで、練って練ってかなり完成度が上がってたんで、勝負はできると思ってました。そうしたらあいつ、普段より落ち着いてて、バッカンバッカンウケるんです。スタジオの笑い声が俺の耳に入ってくるぐらいに。そりゃ興奮しましたよ。ネタ終わったら、周りにいた関係者が次々にハグしてくれてね。弱小の苦労が分かるから。
心の底からショージに感謝しましたよ。こんな所まで連れて来てくれて、ありがとうなって。優勝は逃しましたけど、あの手の大きなコンテストは勝ち負けよりインパクトが大事なんです。必ずしも優勝した人間が売れるわけじゃない。あの年は贔屓目なしに天童ショージの年でした。それが証拠に、あれからゴールデンのレギュラーが一気に増えて、番組MCの仕事が来て、ちょい役ですけどドラマ出演、挙句の果てにCMまできましたからね。完全なブレイクです。嬉しかったなぁ。
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source : 週刊文春 2023年11月2日号