【前回までのあらすじ】瀬尾の人となりを知るべく、奏は「エースレコード」に勤めていた佐藤篤が営む歌謡バーを訪れる。奥田美月のデビュー時から宣伝を担当していた佐藤は、最初美月は期待したほど売れなかったと振り返る。しかし、瀬尾の助言で三曲目が大ヒット。その後の快進撃に繋がっていく。その話から瀬尾が陰ながら彼女をずっと支えていたことが分かってきた。
「スケジュールがパンパンになるからさ、事務所が日程出してくんないのよ。売れなかったらレコード会社が悪くて、売れたらこれかよって鼻白むんだけど、やっぱり手綱を握ってるのは事務所だからさ。まぁレコード会社の宣伝活動はギャラが出ないし、こっちは対テレビに弱いしね。マスコミとの食事会も、協力して動かないと音楽賞狙えないし。結局、信頼関係をつくってうまくやるしかない。そこはどの業界も同じかもしれないけど」
「瀬尾さんが美月さんの担当になるいきさつを教えていただいてよろしいですか?」
話していて気のいい人だということは分かったが、佐藤の話は奏が軌道修正しないと脱線したまま戻ってこない。
「前の担当Pと揉めたんだよ。音楽の方向性の問題が一番大きかったのは間違いない。でも、その背景には立場の逆転があったと思う」
「立場の逆転というと、美月さんの存在がどんどん大きくなっていったってことですか?」
「会社の利益の半分を美月が稼いでたからね。シングルだけじゃなくて、アイドルとしては珍しくアルバムも売れる。いつの間にか衣装とか振り付けも自分で考えるようになって、それも全部評価されるもんだから、完全に自分を軸に世界が回ってる状態になってしまった。いわゆる天狗ってやつ」
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source : 週刊文春 2023年11月30日号