【前回までのあらすじ】瀬尾のブログで個人情報を公開された歯科医、牧村志保が自殺したという真偽不明のネットニュースが流れ、奏は初めて炎上を経験する。誹謗中傷を受け息苦しさを感じるとともに、いい加減な情報で自分や瀬尾を責め立てる人々の行動に疑問が湧く。自身や家族の誰かに無限の矢が突き刺さっていく姿を、想像しようとしないのはなぜなのか――。
瀬尾の“犯行”によってネット時代の喫緊の課題として明らかになったのは、匿名性がもたらす「無責任の毒」の深刻さだ。瀬尾が毒を以て毒を制した結果、自らは刑事被告人になり、前科がつくことも免れないだろう。
そして彼を弁護する奏も、自身が炎上したことによって「無責任の毒」の重大さが身に沁みたのだった。
ホテルのロビーで打ち合わせをした後、瀬尾は東京の自宅マンションに帰った。音楽家の盟友、池田啓太からも「見張っておきます!」と冗談めかしたメールが届き、依頼人の身柄という点ではようやく一段落した。
弁護人が調書を読めるのは、起訴後のことだ。今日の午前中、奏は京都地検を訪れ「公判部」の片隅で警察段階の「員面調書」と検察官による「検面調書」計六通に目を通した。「員面」「検面」とも同じような内容で、身上経歴、動機、犯行状況などが整理されているが、どれも奏が知っている話だった。結局、検察はウイルスに関して詰めきれなかったようだ。
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source : 週刊文春 2023年12月14日号