【前回までのあらすじ】公判が続く。被告人質問が行われ、からの質問に対し、瀬尾が「天童から死の六時間前に電話があった」と漏らす一幕があった。事前打ち合わせで出なかった話で、普段ミステリアスな彼が感情を露わにしたことに奏は動揺する。そんな瀬尾だったが、検事から謝罪の意思について問われると、告訴人本人に対する謝罪だけは頑なに拒むのだった。

 

「天童さんはSNSを中心に、奥田美月さんは週刊誌を中心に、目を覆いたくなるようなむごい言葉を浴びせられました。私が特にひどいと思った発信をしたのが、公開を決めた八十三人です」

 瀬尾は毅然として言い放った。裁判官の心証を考えれば、謝罪や後悔の念がないことは好手とは言い難い。だが、瀬尾自身が覚悟の上であることを、奏は理解していた。

「つまり、後悔がないんですね? 後悔がないなら再び同じことをしませんかね?」

「情報公開した人のご家族、並びに私の周囲の人に多大なご迷惑をお掛けし、それについては反省しております。先ほども申し上げましたが、ブログやSNSのアカウントは全て削除済みで、今後ネットで何かを発信するつもりは一切ありません」

 検事はやや不満げな様子で、裁判官に「終わります」と言って座った。

 当初は追加質問しない方針だったが、裁判官から確認されたとき、奏は自然と立ち上がっていた。

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source : 週刊文春 2024年2月8日号