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「仕事がなかったら、子ども無事に産めるのかなと心配し過ぎてどうにかなっていた」 “傷つきやすい”藤崎彩織のエッセイは、なぜ妙に“ご近所にいる人”っぽいのか

「仕事がなかったら、子ども無事に産めるのかなと心配し過ぎてどうにかなっていた」 “傷つきやすい”藤崎彩織のエッセイは、なぜ妙に“ご近所にいる人”っぽいのか

藤崎彩織×岸田奈美#1

2021/10/08
note

傷つくって悪いことじゃない

 彩織さんがこの本で書いている「ねじねじ」っていうのは、この治癒のことなんじゃないかと思います。傷跡を縫っていく自己治癒の様子を、漫画『ブラック・ジャック』が自分で自分を手術するシーンみたいに、すごく丁寧に見せてくれている。私はそのあたりを笑いに変えてしまうけど、彩織さんは一歩も逃げずに傷をどう縫っていくか見せていて、すごい迫力がある。彩織さんの文章に触れた人はみんな気づくと思いますよ、傷つくって悪いことじゃないし、人間としていちばん成長できることなんだなって。

藤崎 素敵な解釈をして頂いて嬉しいです。私は、空回りしたり悩んだりと「ねじねじ」している自分の内側を書いて、そのことで自分も救われていました。

©iStock.com

自分の正直な気持ちをまっすぐ伝えることが大事

岸田 彩織さんの書くものはご本人だけじゃなく、読む側も救うと思います。実際、私も彩織さんの文章に救われました。『ねじねじ録』の「偽物の夕焼け」で、偽物のほうが本物っぽいという話が出てきますよね。私は以前、自分の書いたエッセイが「ウソ」なんじゃないかと悩んでいた時期があって。というのも私は記憶力に自信がないので、印象的なひと言とか瞬間の場面は鮮明に覚えているのに、その前後の状況や会話は忘れてしまう。エッセイで人に語るためには、前後の話もつけないと伝わりづらいから、だいたいこんな流れだったはずとぼやかして書いてしまうこともある。これって人をだましていることになるんじゃないのかな、関係している人が読んで「ウソだ!」と言われるんじゃないかなと怯えていました。最近はSNSで人のウソが暴かれて炎上することも多いし。

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 でも彩織さんの文章を読んだら、そうか私がそのときどきに抱いた感情は本当なんだし、それがどうやったら伝わるかなと誠実に考えてさえすればいいんだと思えた。何よりも自分の正直な気持ちをまっすぐ伝えることが大事で、その途中で曖昧な部分があってもそれは曖昧なままでいいか、と思えました。

藤崎 書いた本人じゃ気づけないような読み解き、うれしいです。

【続きを読む 「車椅子の母の手で操縦するクルマとか、障害のある弟がコンビニで出遭った奇跡とか…」 岸田奈美が障害のある家族と暮らして気付いた人間の“本能”】

ねじねじ録

藤崎彩織

水鈴社

2021年7月30日 発売

「仕事がなかったら、子ども無事に産めるのかなと心配し過ぎてどうにかなっていた」 “傷つきやすい”藤崎彩織のエッセイは、なぜ妙に“ご近所にいる人”っぽいのか

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