中国・深センや隣接する東莞の一帯が、これまでの低賃金を武器にした労働集約型産業から変貌し、「紅いシリコンバレー」とか、「ハードウェアのシリコンバレー」と言われ始めている。
その理由は、スタートアップ企業が多く生まれているからだ。2017年の新規登録企業数は約36万社に到達。単純計算すると、1日あたり1000社がこの地区で誕生していることになる。2017年の中国における特許受理件数も約40%が深センに拠点を置く企業によるものだ。
ベンチャーから始まって企業評価額が10億ドルにまで成長した会社を「ユニコーン企業」と呼ぶ。2017年に深センでは、そのユニコーン企業が12社誕生した。分野は、インターネットファイナンス、物流、不動産など多岐にわたる。
筆者は今年3月末から4月初旬にかけて深センや東莞を訪れた。そこで中国企業の意思決定の速さと30代の経営幹部が多いことに驚いた。これがダイナミックに産業構造を変えられるパワーの源泉の一つと見た。
「白牌企業」や「山塞企業」と呼ばれるコピーメーカー
深センの歴史を振り返ろう。鄧小平の経済開放路線で先陣を切って1980年に中国初の経済特区に指定、労働集約型の製造業から始まり、「来料加工」と呼ばれる製造業や、コピーメーカーが発展した。香港や台湾の大資本が深センを利用して、あらゆるモノを生産して、「世界の工場」と言われるまでになった。
「来料加工」とは、たとえば日本から原材料を輸入してそれを加工し、組み立て工場がある他国へ輸出するような付加価値の低いもの造りのことを指す。コピーメーカーは現地では「白牌企業」や「山塞企業」と呼ばれる。日本でも知られている、シャープを買収した台湾の鴻海も深センを一大拠点としている。
深センのモノづくりについては、『「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ』(藤岡淳一氏著)が詳しい。同著は、日本の産業界では隠れたベストセラーになっているほどだ。
藤岡氏は日本に本社を置くジェネシスホールディングスの社長だが、2011年に深センでEMS(製造受託)企業を創業。イオン向けに格安スマホを生産したことで話題となった。藤岡氏は創業前の2001年頃から深センに乗り込み、製造業に深くかかわってきた。
同著などによると、「白牌」とは、ノーブランドのことを意味し、「白牌企業」から家電製品を大量購入して勝手に自社ブランドとして売ることが可能になる。家電量販店などの自社ブランド安物家電はこうした「白牌企業」から調達しているという。「山塞」とは、山の要塞のことで山に住む山賊を意味するそうだ。無許可でコピー品を造っている会社で、国際的にみれば非合法かもしれないが、この手法が「当たり前」のビジネスのやり方としてこの地域では通ってきた。