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光が満ちた美術館で得たコンセプト

 小野祐次は10歳で写真の魅力にとりつかれ、その後ずっと写真の仕事と作品づくりに専心してきた。大学卒業後にパリへ渡り、街を探索していて気づいた。芸術の都・パリには、狭い地域にこれでもかと絵画作品が集積している。しかも名画がごっそりと。

小野祐次「Vice Versa ‒ Les Tableaux」展示風景画像, 2018, ShugoArts

 写真家たる彼は夢想した。この宝の山のような絵画群を、なんとか写真へ取り込み還元することができないものかと。

 そこでまずは徹底的に勉強をした。美術館に通い、絵画についてのあらゆる知識を吸収していった。次いで小野は、教会に目を向ける。主祭壇は絵画や彫刻で彩られており、これを被写体に据えようと考えた。パリと近郊を巡って、千軒もの教会を観て回った。

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小野祐次「Vice Versa ‒ Les Tableaux」展示風景画像, 2018, ShugoArts

 そんなとき、閉館中の美術館内部へ入る機会があった。ふだんは堅く閉ざされている展示室の雨戸を開けてもらうと、室内に光が満ちた。真正面から光を受けた一枚の絵画に目をやると、そこに描かれたイメージが光によってみるみる消えていく。

Impression, Soleil Levant, Claude Monet copyright the artist courtesy of ShugoArts

 それを目にして、小野は一瞬で、「探していたものはすべてここにある」と悟った。この光景を写真にすればいい。「タブロー」シリーズのコンセプトが生まれた瞬間だった。

 無数に教会を観て、感覚が研ぎ澄まされていたからこそ、美術館の展示室内で起きたささやかな「美の奇蹟」を、見逃さずに捉えることができたのだろう。

 以来20年以上にわたって、「タブロー」は撮り続けられている。その精華がいま、ギャラリーに集まり光を放っているのである。

 かつて小野が全身を打ち貫かれたまぶしい光を、わたしたちも追体験してみたい。