イノベーションし続ける桑田佳祐
ただ、それにしても40年間である。巨大な先行者利益があったとしても、それだけで走り切ることが出来る年月ではない。私が注目するのは、40年間、特にアルバム『海のOh,Yeah!!』の収録曲が生み出された後半の約20年間における、桑田佳祐自身のイノベーションである。
その中でも、もっとも驚くべきは、桑田佳祐のボーカルだ。年を取っても進化し続け、62歳になった今でも、ほとんど衰えていない感じがする。むしろ20代の頃よりも、声が出ている印象なのだ。もっとも、小田和正や沢田研二、山下達郎など、桑田よりも年上でかつ、張りのあるボーカルを聴かせ続けるバケモノ(失礼)もいるのだが、桑田自身も節制と努力を重ね続けているのだろう。
そして、創作意欲にも驚かざるを得ない。サザンだけでなくソロ作品も含め、新たな作品を出し続けるエネルギーは、若い頃以上のものがある。
41年目のサザンに期待したいこと
さらには歌詞の世界の広がりにも注目したい。ロックンロールを中心として、コミカルなものからエロティックなもの、ひいては社会的なテーマまで、桑田佳祐が手がける、ここ最近の歌詞の世界観は、日本の音楽シーンの中でも屈指の広さだと思う。
私が、特に注目するのは、現段階で最新のオリジナルアルバムとなる『葡萄』(15年)に収録された『はっぴいえんど』の歌詞だ。かつて大病(食道がん)を患い、アラカン(60歳前後)となった桑田佳祐による、明らかに死生観のようなものが語られているのだ。
来年=41年目のサザンに向けて、現在52歳(桑田佳祐のちょうど10歳下)の私が期待したいのは、そのような年相応の音楽作りである。還暦を超えた桑田佳祐による、年相応の枯れたロック。それが私世代も含めた、日本のシニアをどれだけ勇気付けることだろう。
ほうっておいてもサザンは、その先行者利益で、Jポップ市場にまだまだ君臨し続けられる。だから桑田佳祐には、先んじて新たな音楽カテゴリー=「J(ジジイ)ポップ」の開拓者になってほしいのだ。期待したい。
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