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「母親はずっと子どもと一緒にいるのが幸せ、それで満足すべき」という社会への疑問

「産後ケアをすべての家族に」マドレボニータ創業者・吉岡マコインタビュー#1

2019/01/09

母親になったとたん、窮屈で孤独に

――「出産は病気ではない」とはよく言われますが、それでも「リハビリ」が必要になるほど身体に大きな変化が起こります。そのこと自体が実はあまり知られていません。吉岡さんが最初の教室を立ち上げたのは、まだ息子さんが0歳の頃。それだけ心身がボロボロの状態で、なぜ教室を立ち上げようと思えたのでしょうか? 

吉岡 産後女性をケアするインフラがないことに気付いたことが大きいです。ニーズはあるのに当事者も社会も気付いていない。妊娠中には妊婦健診などの公的補助があり、子どもには乳児検診、予防接種などはありますが、産後の女性に対してはほぼ皆無でした(当時)。日本の新生児死亡率は世界最小で、安全に子どもを産めるはずの国なのに、これだけ少子化である理由はここにあるのではないかと。それなら自分で作ることで貢献できないかと強く思いました。

 

「母親はずっと子どもと一緒にいるのが幸せ」?

――産後の母親を守ってくれるサービスがないということは、産後うつになった私も痛感しています。母親になった途端、「誰も私を見てくれていない」と感じました。

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吉岡 世の中を見渡すと、赤ちゃん向けのサービスはたくさんあるけど、母親向けのものはほぼないですよね。それに、母親になったとたん、社会に対して何かを生み出すのではなく、「消費者」としてしかみなされない。働くことに関しては戦力外とみなされている。消費を通してしか社会とつながれないのは、窮屈で孤独な状態だと思っていました。もちろん子どもとの時間はかけがえのないものですが、母親はずっと子どもと一緒にいるのが幸せ、それで満足すべき、という漠然とした風潮には疑問を持ちました。

 すべての子育ての重圧が母親一人の肩にのしかかっていることが正当化されているのはおかしいです。もっと子育てを色んな人が担って、母親の負担を軽くして、母となった女性が子育て以外にやりたいことをやってもいいんじゃないかと思っています。

 

産後は「人に委ね、感謝する」を学ぶ期間

――私も産褥期はマンションで孤独に子育てをしていましたが、現状ではゆっくり静養をするというのは難しいように思います。 

吉岡 私達はあらゆるものが便利になった時代に生きているので「人の手を借りて感謝する」という謙虚な姿勢を忘れているように思います。人に頼むぐらいなら、自分でやった方が楽という感覚のある人は多いと思いますし、私もそうでした。しかし、出産が体に与えるダメージはあまりに大きく、自分が衰弱して動けなくなって初めて、人の力を借りて、謙虚な気持ちになれるということを私は経験しました。出産後に本当に学ぶことは育児の方法ではなくて、「人に委ね、感謝する、という心持ち」なのではないかと思っています。