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崖っぷちの男たち。控え野手の充実を

 リーグ打率2位を誇る打撃陣はどうだろうか。解説者になった井端弘和さんは「打つ方はトップクラス。巨人の投手陣はみんな嫌がっていた」と証言している。ドラゴンズの6回時点での勝率はリーグ3位。得点力そのものはそれほど高いとは言えないが(リーグ4位)、取るところでは取っているのだ。

 だが、とにかく選手層が薄い。ペラッペラである。先述の球団別イニング別得失点によると、ドラゴンズは9回の得点も37とリーグワーストだった。これはひとえに代打陣の手薄さによるものだ。「なぜあいつを出さないんだ!」と声が上がる選手がいなかった事実もつらい。

 ドラゴンズの弱さは2軍の弱さに表れている。ウエスタンリーグは首位・阪神に26.5ゲームつけられてぶっちぎりのドベ。与田監督は就任にあたって、「今年、2軍が長かった選手は1軍が最下位になりそうなチーム状態だったにも関わらず、上がれなかったということ。それだけ力がないことを自覚してほしい」と2軍が定位置となっている選手たちに檄を飛ばしていたが、本当にその通りだと思う。ぶっちゃけ、後がないと感じている選手も少なくないだろう。

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 1軍で手薄だった控えの野手の座は、荒木と工藤隆人が引退した今、がら空きと言っていい。個人的には出場試合数は少なかったものの、ファームで打率.337を記録した石川駿に期待している。後のない崖っぷち戦士たちによる死に物狂いの大暴れが見たい。

2軍が定位置となっている選手たちに檄を飛ばしていた与田監督 ©文藝春秋

若い男たち。ドラフトが最大の補強

 シーズンオフに目立った補強がなかったのもE判定の理由だろう。だが、これはもう仕方がない。織田裕二ばりに「お金がない!」のだ。ドラゴンズは少ない資金でたくさん勝つ、高コスパ球団を目指すしかない。

 最大の補強はドラフトである。自前の選手で最強打線を構築した広島の例を挙げるまでもなく、ドラフトの成否が5年後のチームの成績を左右する。この数年、ドラゴンズのドラフトは成果を上げてきた。2015年の小笠原慎之介と佐藤、2016年の京田陽太、笠原祥太郎、藤嶋健人はチームの中心選手に育ちつつある。

 歴戦のレジェンドたちがいなくなった今のドラゴンズは、少年少女たちしか乗っていないホワイトベースのようなものだ。生き残り、勝ち抜くには年若い戦士たちの覚醒が必要になる。今年2年目となるティーンエイジ5人衆、吉見一起が「ストレートはチェン・ウェイン級」と評した石川翔、台湾WLで内野安打を打ちまくった高松渡、最速150キロの清水達也、ファームで試合出場を重ねた伊藤康祐、マダムたちを泣かせた山本拓実は、今年間違いなく実戦に投入されるはずだ。“神ドラフト”で入団する根尾をはじめ、梅津晃大、勝野昌慶らにも期待がかかる。

 戦力が「E」だからって弱いと決まったわけではない。石橋貴明がいつもリアル野球BANで言っているように、勝ったものが強いのだ。かつて織田信長は3000の軍勢で2万を超える今川義元軍を打ち破った。ドラゴンズが巨大戦力の巨人や常勝と化した広島を打ち破れば、そんな痛快なことはない。もっぺんやったろみゃーか桶狭間、だ。

 森繁和監督率いる2018年のドラゴンズは「変わりかけたが、変われなかった」チームだった。ドラゴンズは今年こそ変わらなければならない。いや、間違いなく変わるだろう。与田監督の手腕は未知数だが、言葉の端々からは「変わらなければいけない」という意気込みと覚悟を感じる。キャスター経験を活かした与田監督の明瞭な言葉は若い選手が多いチームに合っていると思う。新監督には、選手たちの闘志をかき立て、固定概念にとらわれず選手たちを活用する采配が求められる。

「勝つことが一番のファンサービスだと思うし、そのためのプレーができる選手になりたい」――これは落合博満元監督の言葉でなく、根尾昂の言葉である。なんとも心強い限りだ。チームも、ファンも、何よりも勝利を渇望している。目標は優勝。辛酸を舐めた選手たちの力、崖っぷちの選手たちの力、若い選手たちの力、どれも欠かすことはできない。彼らの力が重なり合って爆発すれば活路は開けるはずだ。

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