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強い中国の“コワすぎる”側面――台湾の空港内で暮らす亡命中国人の「独占手記」

“謎の中国人スパイ”から逃げてきた元共産党員

2019/01/10
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 2004年のアメリカ映画『ターミナル』(スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演)をご存じだろうか? 主人公の母国の政府が、ニューヨークへのフライト中にクーデターで消滅。9ヶ月間にわたりJFK国際空港の制限エリア内での生活を余儀なくされる様子を描いたロマンス・コメディ作品である。

 実のところ、政治的理由などで亡命したり、ある国から入国拒否を受けたりした結果、国際空港の制限エリア内で長期間の生活を余儀なくされる人物はたまに出現する。最も有名なのは『ターミナル』のモデルにもなった元イラン人のメーラン・カリミ・ナセリで、彼は身分証明書を失った難民としてパリのシャルル・ド・ゴール空港内で19年間にわたり暮らしていた。

フランスのシャルル・ド・ゴール空港の出発ロビーで19年間暮らしていたメーラン・カリミ・ナセリ ©getty

 日本でも2009年11月から2010年2月にかけて、中国人人権活動家の馮正虎が母国の中国・上海浦東国際空港で入国拒否を受け、送還先である成田空港のロビー内で生活を続けた事件が起きている。ちなみに当時、馮は日本入国は可能だったとされており、空港生活は中国政府への抗議パフォーマンスとしておこなわれた側面もあった(なので、この一件では最終的に中国側が折れて入国を許す形で幕引きが図られている。当時の中国のトップが穏健な胡錦濤だったことも幸いした形だ)。

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友人が現在進行形で「空港男」になった!

 実は昨年9月27日から2ヶ月以上にわたり、台湾の桃園国際空港の制限エリア内でも、そんな「空港男」の2人組が暮らしている。亡命中の中国人である彼らの状況は、往年の馮正虎よりも深刻だ。中国に帰れば投獄は必至だが、かといって台湾当局としても対中関係に余計な摩擦を生む彼らの入国は認められない。一方で第三国の受け入れ体制も整っていない――と、まさに八方塞がりの状況らしい。

 しかも困ったことに、私はこの空港男の1人・顔伯鈞と面識がある。過去の東南アジア旅行中にたまたま出会った彼と、なんとなく友達になった結果、2016年に彼の手記『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)を編訳したことがあるのだ。