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強い中国の“コワすぎる”側面――台湾の空港内で暮らす亡命中国人の「独占手記」

“謎の中国人スパイ”から逃げてきた元共産党員

2019/01/10
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海外に亡命した中国人が工作員に転向する

 顔伯鈞の手記は以上である。彼が言及するネット上の中傷は、タイで参加した現地華人の商工業者の宴会を「中国共産党関係者との宴会」として流布されるなど、なかなかえげつないようだ。これらのネット戦を担っているのは、中国当局直属の工作員だけではなく、海外に亡命した上訪者(中国政府への生活問題の陳情者)が再転向した例も多い模様である。

 上訪者は政治的なイデオロギーを持つ民主化運動家ではなく、生活上の問題や不利益を「お上」に陳情に行ったが意見を受け入れられなかった人たちだ(それはそれで大きな問題である)。陳情活動を通じて当局との関係が緊張した結果、耐えきれず海外に亡命したものの、現地で食うに困って今度は中国の工作機関の下働きをすることで生活を保障してもらう人も少なくないようである。

(こうした上訪者の権利を保障するための運動をしていた人権活動家が、中国当局に買収された元上訪者からあべこべに攻撃される構図は実にやるせないが、実に中国らしい話ではある。政治に関心を持たない庶民にとって大事なのは、民主化のイデオロギーよりも個人のサバイバルだからだ)。

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 さておき、台湾の桃園国際空港で寝起きをする顔伯鈞と劉興聯の生活は100日以上に達してしまった。現場レベルでは限りなく優しい台湾側スタッフの話は心温まるものの(台湾は国家としては彼らを救える力を持っていないが、人権意識は高いのである)、いつまでも彼らの厚意に頼るわけにもいかない。一刻も早い事態の解決が望まれる。

顔伯鈞氏の年表(著者作成)

顔伯鈞(Yan Bojun)

1974年湖南省常德市生まれ。本名、顔克芬。中国共産党中央党校政治経済学修士、北京工商大学嘉華学院元准教授。2012年に中国国内の改革運動である新公民運動に参加後、国内逃亡を経て2015年にタイに亡命。独立中文ペンクラブ会員、タイでも中国民主党全国聯合総部東南アジア分部副主席をつとめるなど中国民主化運動を継続した。著書に『「暗黒」中国からの脱出』(文春新書、2016年)。

 

劉興聯(Liu Xinglian)

1955年陝西省西安市生まれ。元は海南省の商人。2013年に中国国内で人権組織「玫瑰団体」を結成し、中国人権観察秘書長に就任。2015年、国家政権転覆煽動罪で逮捕され9ヶ月間投獄。釈放後の2017年にタイに亡命。

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