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日本一を逃してしまったカープへの想い

《2016年からセ・リーグ3連覇を果たした広島東洋カープ。ここ数シーズンは、他チームの追随を許さない独走優勝。しかしながら、日本一は遠い。そこはやはり、悔しかったり、悲しかったりするのでは?》

西川 いやもう、改めてパ・リーグは強い、と思いました。投手層の厚みとか、短期決戦での勝負勘とか、素人目にも些細なところで差を感じざるを得なかったですし、やっぱりダメか、とがっくり膝をつきました。とはいえ、もう感謝しかありません。ここ5、6年、強いチーム、上の方で競っているチームのファンというのはこんなにも楽しませていただけるんだな、と実感しています。いまはオフシーズン。試合もないので、心穏やかに仕事に集中しています(笑)。

 カープは地域性がきわめて強くて、祝福された集団です。選手の方々には、小さい町ならではの煩わしさもあると思うけど、応援する側もされる側も、なんとなく自己肯定感が上がっていくような人生が、カープのまわりにはあるように思います。広島に限らず、地域とその地域のスポーツチームがいい形になれるって、互いにとって本当に素晴らしいことなのだろうな、と思いますね。

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外野から、ずーっとぼんやり憧れて

《映画監督の傍ら、文章も書く。そして2015年からは、スポーツ雑誌「Sports Graphic Number」で、エッセイ「遠きにありて」も連載している(現在は4号に1度の掲載。先月単行本『遠きにありて』として1冊にまとまった)。スポーツ雑誌での連載なのだから、アスリートと接する機会もあるのだろうか?》

西川 そこは距離を置きたいと思っています。スポーツのことを書くにしても、アスリートの方々とは直接触れ合わずにやっていこうと。Numberの記者の方は選手の肉声を聞き、鍛錬の様子や葛藤を拾って裏付けのあるドキュメントを書かれているはずなので、私はあえてスポーツを見ている側、一般の人間が外野から、ずーっとぼんやり憧れながら、勝手に自分の人生に引き寄せて書いている、というところにいようと思って。だから『遠きにありて』というタイトルなんです。

©釜谷洋史/文藝春秋

弱くてセコくて脆い主人公につけた名前

《1度だけ、その禁忌を犯した。鉄人・衣笠祥雄さん。『永い言い訳』(2016)で本木雅弘さんが演じる、弱くてセコくて脆い主人公に名前をつけるにあたって、「最もつけられて苦しい名前は何か」と考え、その対極にあるような衣笠さんの名前を借りた(役名は衣笠幸夫)。小説化、映画化に際して連絡をとると快諾をいただき、試写にもかけつけてくれた》

西川 衣笠さんは、現役時代はほんの頭の片隅にしか残っていないのですが、たとえば近年のテレビ解説のときも、あれほどのレジェンドでありながら若い現役選手への言葉遣いの中に常にリスペクトがあって、ほがらかで、人としての優しさがにじみ出てましたよね。だからカープの選手というよりも、野球界の大事な人、もっといえば歴史上の偉人のお名前を借りたような思いだったんです。でも、だいそれたことをしてしまいました。お会いしたときに、やってしまったことの大きさに気づきました。もう2度と、スポーツ選手の名前をメインキャストにつけることはないと思います。最初で最後です。