お騒がせトランプ政権メンバーの、危険で過激な発言の数々。たとえばこんな言葉がありました――

「礼儀正しくあれ。プロフェッショナルであれ。ただし、誰と会おうと、そいつを殺す計画を立てておけ」――ジェームズ・マティス国防長官

ワンワンワン! 狂犬のマティス国防長官

 アメリカはイスラム国など「新たな敵」に対してどう対応するか。ジェームズ・マティス国防長官は「戦争の性質が根本的に変容したとインテリたちはいうが、アレキサンダー大王が我々の敵にいま直面しても、微塵たりとも動揺しないだろう」と語る。マティスは、戦う人間の本質と戦術はいつの時代も変わらない、という保守的な歴史観を持っているのだ。そのことを心するために、古代ローマ皇帝・マルクス・アウレリウスの『自省録』をたえず携帯しているという。「私は戦闘が好きだ」と公言するマティスがこの書を読むのは、「自らを律するため」だそうだが、標題の名言は「狂犬」と称されるにふさわしい。

「暗黒はよいことだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン……。暗黒は力だ」――スティーブ・バノン首席戦略官

権謀術数に長けたバノン首席戦略官。ちょっと大和田伸也に似ている

 大統領のビジョンを練るのが戦略官チームの任務だ。その首席を務めるのがスティーブ・バノンである。数多の側近の中で一番の切れ者だと評される。自称「経済ナショナリスト」。「我々(トランプ政権)はこの先50年は統治できる」という。憲法上、大統領の最長期間は8年だが、バノンが目指す経済ナショナリストの国のあり方は50年続くという譬えだ。でもどうやって? 

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 その答えが標題の名言である。これには続きがある。「彼ら(敵である民主党やメディア)が読み違えれば、暗黒は助けになる。我々が誰であり、何をしているのか盲目であるときは」。意味深である。実際、大統領戦で敵に読み違いをさせ、勝利に導いた実績がある。トランプの影にバノンあり。

「トランプを遠くからみれば、嫌いになるのは簡単だ」――ジャレッド・クシュナー上級顧問

トランプの娘・イヴァンカの婿殿、クシュナー上級顧問

「トランプを大統領にした男」(フォーブス誌)、「トランプが最も信頼する男」(キッシンジャー元国務長官)と称されるのがジャレッド・クシュナー上級顧問である。選挙期間中、ソーシャルメディア活用による有権者の地域別ニーズ解析から、「選挙予算の配分から広告宣伝や遊説場所の決定、演説トピックの微調整まで」を采配した人物である。選挙期間中、トランプ陣営には組織基盤がなく、ただ思い付きのメッセージを発していると揶揄されてきたが、すべては緻密に計算されていたのだ。

 クシュナーは娘イヴァンカの夫で、家業は義父と同じニューヨークでの不動産業。「二人は不動産と私のことで、意気投合した」(イヴァンカ)という。かつては、民主党支持で「アッパーイーストで“バブル”な生活をしていた」大口献金者の一人であったが、義父の地方遊説に同行して世界観が変わった。「各地で何万もの一般アメリカ人がトランプの集会に参加し、政府の過剰規制や教育制度に激怒する」声に耳を傾けたからだ。

 しかし、そんな地方から遠く離れた都市部やメディア業界にはトランプ支持の声は実感として伝わってこない。その状況を冷静に描写したのが掲題の言葉。大統領となった義父を引き続き支援するため、故郷ニューヨークからホワイトハウスのあるワシントンDCに引っ越しをすませた。娘婿から動向に目が離せない。

「私は第一にキリスト教徒であり、第二に保守派であり、第三に共和党員である」――マイク・ペンス副大統領

いつもトランプと一緒。マイク・ペンス副大統領

 何かと“お騒がせ”のトランプ政権に安定感をもたらしているのは、マイク・ペンス副大統領の存在である。下院議員を6期務めあげたのち、故郷のインディアナ州知事に就いた実務家だ。その任期中の2016年7月、突如、共和党予備選に勝利したトランプから副大統領の指名を受けた。その受諾演説での冒頭の発言が掲題の言葉である。

 トランプはそれまで、キリスト教や憲法に対する保守派の国民を代表する共和党候補に選ばれながら、「信仰深くなく」「保守的でなく」「共和党員らしくすらない」という否定的評価があった。そんな中、ペンスのこの一言で状況は一変した。トランプにない3要素を併せ持った副大統領の登場で保守派を安心させると同時に、まともなペンスを選んだトランプの株が急上昇したのだ。当選後、政権移行チームのトップとして、トランプと党幹部とのパイプ役になりながら、政権の閣僚・高官の人選にあたってその力を発揮した。今後、政権運営においてペンスは、紛糾が予想される議会との調整など、さらなる実務能力が期待されている。

写真=getty