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鳥取一の進学校・米子東をセンバツに導いた「超合理的思考法」とは

部員16人の公立校はなぜ躍進できたのか

2019/01/25

24時間=1440分を使いきる人になろう

 こうした考え方自体は、多くの指導者も語っている。だが、紙本が特異なのは、その思考をしっかりと方法論に落とし込んでいるところだ。

 そこに野球部躍進の理由も見えてくる。

 ポイントは〝行動の習慣化〟だ。

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「部活で言っているのは『24時間を使いきる人になろう』ということです。24時間は分で言うと1440分なんですけど、これを無駄なく使い切れるようにしようと。例えば毎日1440円を朝に受け取れて『使い切れなかったらゼロになります』と言われたら、すごく大事に使うと思うし、10円玉を落としたら拾うと思うんですよ。でも、人って10分をすぐに無駄にするんです。10円をかき集めたらすぐにジュースくらい買えるわけで、10分をかき集めたら結構なことができるはずなんです。でも人はなかなかそれができない。じゃあ、どうしたらできるようになるのか。大事なのは『習慣形成』なんです。要は習慣になっていないことをしようとするから苦痛を伴う。勉強や野球の練習を『やることが普通』の状況にもっていきたいんです」

「自分がいると選手たちも残らなきゃというプレッシャーになるから」監督自身は練習が終わるとすぐに帰るそうだ

「甲子園に行きたい!」ではなく「甲子園に行ったらどんないいことがあるの?」

 言葉で言うのは簡単だが、染みついた習慣を変えるということは非常に難しい。とかく人間は何事においても楽な方に流れがちだからだ。だが、順を追ってひとつずつハードルを越えて行くことで、すこしずつ変化がでてくるのだという。

「習慣形成をするためにまずやらないといけないことは『目標設定』なんです。ウチで生徒が目標設定をするときは『達成しているところが映像でイメージできる』ように設定するように言っています。映像で考えるには期日と場所が入っていないといけないので、目標の大会等があれば期日を調べるし、場所のイメージができない場合は『1回行ってみてごらん』と言っています。今はグーグルで画像も出て来るので、それでもいいですし」

 目標設定ができたら、次に必要なのが『目的の確認』なのだという。

「目的ってどういうことかというと、人は目標自体が欲しいわけではなくて、それが達成された時に得られる何かが欲しいわけですよね。感情とか、対価とか。『甲子園に行きたい!』という目標でも、甲子園に行くこと自体が目的ではなくて、甲子園に行ったときに得られる何かが欲しいわけです。なぜ自分はその目標を達成したいのかということを明確にするんですね。その目標を達成したら自分や他者、社会にどんないい影響があるのかということを理解する。これが明確になると、とにかく目標に向かう行動が加速するんです。ただ『甲子園に行きたいです』じゃなくて『じゃあ甲子園に出場したらどんないいことがあるの?』と考える。長くやっていればモチベーションが下がるときはどうしてもある。そういう時はこの目的に立ち返って、頑張る理由を再確認するんです。野球部では自分軸と他者社会軸、有形軸と無形軸という4つに分けて考えています。例えば他者の無形というカテゴリは、親が感動してくれるとか、学校全体が喜んでくれるとか、そういうことですね。それをどんどん表に書きこんでいく。ウチの選手だと40個とか作っています」